要件を丁寧に整理し、予算をかけて、期日どおりに稼働した。
——それなのに、半年後に見てみると、現場は元のExcelを使い続けている。
珍しい話ではありません。システム導入で最も多い失敗は、実は「動かないこと」ではなく「使われないこと」です。
この記事では、良いシステムが現場で使われない理由と、定着させるための具体的な方法を解説します。プロジェクトの進め方については、システム開発の丸投げが失敗する理由|発注側が管理すべき6項目をご覧ください。
なぜ、良いシステムが使われないのか
使われない理由は、たいてい次のどれかです。
| 理由 | 現場で起きていること | 本質的な原因 |
|---|---|---|
| 使い方が分からない | 最初でつまずき、聞く相手もいない | 教育とサポートの不足 |
| 今までのほうが速い | 操作の手順が実際に増えている | 設計が現場の動きに合っていない |
| 使う意味が分からない | 入力しても自分には得がない | 目的が伝わっていない |
| 旧方式が残っている | Excelでもできるので、そちらを使う | 切り替えが曖昧 |
| 入力が面倒 | 項目が多く、1件あたりの時間が増えた | 必須項目の絞り込み不足 |
| 信用していない | 数字が合わない経験をした | 初期のデータ品質の問題 |
注目してほしいのは、3番目の「使う意味が分からない」です。
入力する人と、そのデータで得をする人が違う場合、これが必ず起こります。
営業担当が入力し、その情報で経営者が判断する。この構図では、入力する側にとっては手間が増えただけです。入力する人にも見返りがあるかを確認してください。
定着に必要な5つの取り組み
1|なぜ変えるのかを、現場の言葉で説明する
説明会でよく語られるのは、経営目線のメリットです。
「全社のデータを統合し、経営判断の迅速化を図ります」——これを聞いた現場は、自分に何の関係があるのか分かりません。
| 伝わらない説明 | 伝わる説明 |
|---|---|
| 業務効率化を推進します | 月末の残業が20時間から5時間に減ります |
| データを一元管理します | 在庫を聞かれても、倉庫に電話しなくて済みます |
| ペーパーレス化を進めます | 過去の書類を探す時間がなくなります |
| 属人化を解消します | 休んでも、他の人が対応できるようになります |
右側のように言えるかどうかで、協力の度合いが変わります。
2|最初の1回を、隣で一緒にやる
マニュアルを配って終わり、という進め方では定着しません。
人がつまずくのは、たいてい最初の1回です。ここで詰まって放置されると、「使いにくい」という印象が固定されます。
効果的なのは、実際の業務の場で、隣について1件だけ一緒にやることです。研修室で説明するより、はるかに定着します。
3|聞ける相手を、各部署に置く
分からないときに気軽に聞ける人が近くにいるかどうかで、定着率は大きく変わります。
この役割を担う人を、各部署に1人ずつ決めてください。専門知識は不要で、「他の人より少しだけ先に慣れた人」で十分です。
選ぶときは、次の条件を見てください。
- その部署の業務をよく知っている
- 周囲から話しかけやすいと思われている
- 新しいやり方に前向き、または中立
ITに詳しいかどうかより、話しかけやすいかどうかのほうが重要です。
4|旧方式を止める日を決める
これが最も効きます。そして、最も実行されません。
新旧を併用できる期間が長引くと、慣れたほうへ戻ります。人は忙しいとき、必ず慣れた方法を選びます。
移行期間は必要ですが、「◯月◯日でExcelでの受付は終了します」と日付を明示してください。
目安は1〜2か月です。それ以上長いと、切り替えの機運が失われます。
5|困りごとを集める場を作る
稼働直後は、必ず不満と困りごとが出ます。
これを言える場がないと、不満は水面下にたまり、やがて「使わない」という行動になって表れます。
形式は問いません。週1回5分の朝礼でも、共有のメモでも構いません。重要なのは、出た意見のうち1つでも実際に直すことです。
1つ直れば「言えば変わる」と伝わります。何も変わらなければ、二度と意見は出てきません。
稼働後の3か月をどう過ごすか
定着するかどうかは、最初の3か月でほぼ決まります。
| 時期 | やること | 見るべき指標 |
|---|---|---|
| 稼働〜2週間 | 毎日声をかけ、つまずきを拾う | 操作でつまずいた箇所 |
| 2週間〜1か月 | 出てきた要望を仕分けし、直せるものを直す | ログイン率、入力件数 |
| 1〜2か月 | 旧方式を止め、完全に切り替える | 旧方式の利用が残っていないか |
| 2〜3か月 | 作業時間を測り、導入前と比べる | 作業時間、ミス件数 |
ここで「ログイン率」を見るのは有効です。
使われていない人がいれば、その人に何が起きているかを聞きに行けます。全体の平均だけを見ていると、一部の人が完全に離脱していることに気づけません。
マニュアルは「作る」より「使われる」を考える
立派なマニュアルを作ったのに、誰も読まない。よくあることです。
読まれるマニュアルには、共通点があります。
| 読まれないマニュアル | 読まれるマニュアル |
|---|---|
| 全機能を網羅した数十ページ | よく使う操作だけの1〜2ページ |
| 機能ごとに説明されている | 業務の流れに沿って書かれている |
| 文章で説明されている | 画面の写真に矢印と番号が付いている |
| 共有フォルダの奥にある | デスクに紙で貼ってある |
| 作って終わり | 質問が出るたびに追記されている |
最初から完璧なものを作る必要はありません。
質問された内容をその都度追記していくほうが、実際に必要とされている情報が集まります。
現場に合わせる工夫が、定着を左右する
設計の段階で、現場の実態に合わせておくことも定着に直結します。
配車から請求・入金までをクラウド化した運送会社の事例では、次のような配慮を行いました。
- 使い慣れたExcelでの出力を残した。社外の担当者も、慣れた形式で手元に残せる安心感がある
- 既存の請求書のレイアウトを忠実に再現した。取引先ごとに見慣れた書式があり、変わると先方への説明が必要になる
- 見た目より「迷わず操作できるか」を優先した。日々触るのは現場の担当者だから
- 検索と絞り込みの使い勝手にこだわった。件数が多い月でも目的の情報をすぐ探せるように
特に1つ目は、一見すると「せっかくシステム化したのに」と思える判断です。
しかし、慣れた形式を残すことが、移行への抵抗を下げることがあります。全部を一度に変えないという考え方です。
この事例の詳細は、以下のページでご覧いただけます。

定着でよくある失敗
稼働日をゴールにしてしまう
稼働で気が緩み、担当者も通常業務に戻ってしまう。
しかし現場にとっては、稼働日がスタートです。稼働後3か月ぶんの工数を、最初から計画に入れておいてください。
繁忙期に稼働させる
忙しい時期に新しいやり方を始めると、まず定着しません。
覚える余裕がなく、少しでも詰まれば旧方式に戻ります。繁忙期・決算期・大型案件の時期は避けてください。
最初のデータが汚い
移行したデータに誤りや重複があると、初日から信用を失います。
一度「このシステムの数字は当てにならない」と思われると、その印象を覆すのは非常に困難です。
移行前のデータ整理は、地味ですが最も投資対効果の高い作業のひとつです。
「使わない人」を放置する
1人でも旧方式を続けている人がいると、その周辺から崩れます。
責めるのではなく、理由を聞きに行ってください。使えない理由があるはずで、それは他の人も感じている可能性が高いです。
明日からできる3つのこと
- 各部署の「聞ける人」を1名ずつ決める
ITに詳しい人より、話しかけやすい人を選びます。 - 旧方式を止める日を決めて周知する
1〜2か月後の具体的な日付を出します。 - 困りごとを聞く5分の時間を、週1回作る
出た意見のうち1つは必ず直してください。
よくある質問
ベテラン社員が新しいやり方を受け入れません
反対の理由を具体的に聞くところから始めてください。
多くの場合、その人は業務に精通しており、指摘が正しいことがあります。「この操作だと、この例外に対応できない」といった具体的な指摘なら、設計を直すべきです。
一方、慣れの問題であれば、その人を最初の説明対象にし、意見を反映する形で巻き込むと状況が変わることがあります。
教育にどれくらい時間をかけるべきですか?
集合研修は1回1時間程度で十分です。
それより、稼働後2週間、毎日声をかけるほうが効果があります。人は使いながらでないと覚えられません。
定着したかどうかは、どう判断すればいいですか?
次の3つが揃えば、定着したと考えてよいでしょう。
- 対象者全員が、日常的に使っている
- 旧方式が完全になくなっている
- 現場から改善の要望が出てくる
3つ目は意外に思えるかもしれませんが、重要な指標です。要望が出るということは、使い込んでいる証拠だからです。
まとめ|作ることより、使われることが難しい
- 導入の失敗は「動かない」より「使われない」ほうが多い
- 入力する人にも見返りがあるかを確認する
- 最初の1回を、実際の業務の場で一緒にやる
- 旧方式を止める日を、日付で明示する
- 出てきた意見は、1つでも実際に直す
定着したら、次は本当に効果が出たのかを確かめる番です。
「なんとなく便利になった」で終わらせないために、何をどう測るのか。次回はこのテーマを扱います。
経営課題の整理から、業務の見直し、システムの選定・導入・定着、効果測定、継続的な改善まで。中小企業がDXを進める一連の流れを14回に分けて解説しています。
みんなシステムズでは、稼働後の定着支援まで含めてご相談を承っています。「導入したが現場で使われていない」という状況からのご相談も可能ですので、お気軽にお問い合わせください。