「専門的なことは分からないので、プロにお任せします」
開発会社を信頼した、誠実な姿勢に見えます。実際、技術的な判断は任せるべきです。
ただし、任せてよいことと、任せてはいけないことがあります。
この線引きを間違えると、完成したシステムが業務に合わない、費用が膨らむ、稼働日に間に合わない、といった問題が起こります。
この記事では、発注側が握っておくべき6つの項目を解説します。関係者の認識合わせについては、経営者・現場・システム会社の認識がズレる理由|DXの合意形成の進め方をご覧ください。
「丸投げ」とは、何を渡してしまうことか
丸投げという言葉は曖昧なので、具体的に分解します。
| 項目 | 任せてよい | 自社で持つべき |
|---|---|---|
| 技術の選定 | ○ 開発会社の判断でよい | — |
| 画面の作り方 | ○ 提案を受けて判断する | — |
| 開発の進め方 | ○ 手法は任せてよい | — |
| 何のために作るか | × | ● 自社でしか決められない |
| 誰が決めるか | × | ● 社内の決裁は自社の問題 |
| いくらまで出すか | × | ● 投資判断そのもの |
| いつまでに必要か | × | ● 業務の都合は自社が知っている |
| 何を作るか | △ 整理は支援を受けられる | ● 最終判断は自社 |
| 何が起きたら困るか | × | ● 業務への影響は自社しか分からない |
上の3つを任せるのは、まったく問題ありません。むしろ専門家に任せるべき領域です。
問題になるのは、下の6つまで渡してしまうことです。これらは外部には決められません。
なぜ丸投げすると失敗するのか
開発会社は、あなたの業務を知らない
当たり前のことですが、見落とされがちです。
「この取引先だけ請求書の書式が違う」「繁忙期は件数が3倍になる」「この処理は月末しか使わない」。こうした前提は、聞かれなければ伝わりません。
そして開発会社は、存在を知らないことについては質問できません。
判断が止まると、そこで工程も止まる
開発中には、細かい判断が何十回も発生します。
「この項目は必須にしますか」「削除は誰でもできてよいですか」。こうした質問に答える人が社内にいないと、開発は止まるか、開発会社が推測で決めることになります。
推測で決められた仕様は、たいてい後から直すことになります。
完成してから「違う」と気づく
途中を見ていなければ、確認できるのは完成後です。
その時点での修正は、最も高くつきます。設計段階なら打ち合わせ1回で済んだ変更が、完成後には作り直しになります。
発注側が管理すべき6項目
1|目的
何のために作るのかを、1文で言える状態にしておきます。
これは判断の基準になります。仕様で迷ったとき、「目的に照らしてどちらか」で決められるようになります。
目的が曖昧だと、判断のたびに「どちらでもいいです」と答えることになり、結果として誰の役にも立たないシステムになります。
2|責任者
社内で決める人を、明確に1人決めます。
| 役割 | 担当 | やること |
|---|---|---|
| 意思決定者 | 経営者・部門長 | 予算と優先順位の最終判断 |
| 推進担当 | 実務担当者 | 日々の窓口、進行管理、社内調整 |
| 業務の代表 | 現場のキーパーソン | 仕様の確認、テスト、現場への展開 |
ここで重要なのは、推進担当の工数を確保することです。
通常業務に上乗せするだけでは、必ず後回しになります。「週に半日はこの仕事に使う」と決め、経営者から周知してください。
3|予算
開発費だけでなく、総額で把握します。
- 開発費・初期設定費
- 月額利用料・保守費(年額で見る)
- データ移行の費用
- 教育・マニュアル作成の費用
- 社内担当者の時間(人件費として換算する)
- 想定外の変更に備える予備費(1〜2割)
最後の予備費は、必ず取っておいてください。
予算を使い切った状態で追加要望が出ると、必要な変更まで諦めることになります。
4|スケジュール
稼働日だけでなく、自社側の作業がいつ発生するかを把握します。
| 時期 | 自社側の作業 | 負荷の目安 |
|---|---|---|
| 要件整理 | 業務の説明、判断、資料提供 | 重い |
| 設計確認 | 画面や帳票のレビュー | 中 |
| 開発中 | 細かい質問への回答 | 軽い |
| テスト | 実際の業務データで検証 | 非常に重い |
| 移行準備 | データ整理、マニュアル、教育 | 重い |
| 稼働直後 | 問い合わせ対応、不具合報告 | 重い |
見落とされやすいのがテストの負荷です。
ここは開発会社では代われません。実際の業務を知っている人が、実際のデータで試す必要があります。繁忙期と重なると、テストが形だけになり、稼働後に問題が噴出します。
5|要件
何を作るかの最終判断は、自社が持ちます。
整理作業は支援を受けて構いませんが、「これで業務が回る」と言えるのは自社だけです。
特に管理すべきは、途中で増えた要望の扱いです。追加要望が出たら、その場で次の3つを決めてください。
- 今回やるか、次回に回すか
- やる場合、費用と期間はどれだけ増えるか
- その分、何を削るか
3つ目を決めないと、範囲だけが増えて期日と予算が守れなくなります。
6|リスク
何が起きたら困るのかは、業務を知っている側にしか分かりません。
| リスク | 起きたときの影響 | 備え方 |
|---|---|---|
| 稼働が遅れる | 旧システムの契約期限に間に合わない | 延長の可否を先に確認しておく |
| データ移行の失敗 | 過去の取引履歴が参照できない | 移行のテストを事前に行う |
| 現場が使えない | 旧方式に戻り、二重運用になる | 教育期間とサポート体制を確保する |
| 担当者の退職・異動 | 経緯を知る人がいなくなる | 決定事項を文書に残す |
| 想定より件数が多い | 動作が遅くなり業務が滞る | 想定件数を明示して設計してもらう |
すべてに備える必要はありません。起きる可能性が高いもの、起きたときの影響が大きいものから順に手を打ちます。
進捗はどう確認すればいいか
「順調です」という報告を、どう受け止めるか。ここが難しいところです。
技術的な内容が分からなくても、次の質問はできます。
- 「今どこまで動きますか。見せてもらえますか」(実物が最も正確な進捗)
- 「今、心配なことはありますか」(懸念を早く出してもらう)
- 「こちらで決めていない項目はありますか」(判断待ちを見つける)
- 「予定と比べてどうですか」(遅れの有無を確認する)
特に1つ目が有効です。「進捗70%」という数字より、動いている画面を見るほうが確実です。
月に1回でも実物を見ていれば、大きな認識のズレは防げます。
よくある失敗
推進担当を兼務のまま放置する
最も多い失敗です。
通常業務が忙しくなると、確認や判断が後回しになります。すると開発が止まり、期日が延び、そのぶん費用も増えます。
担当者の時間を確保することは、経営者の仕事です。
安さだけで発注先を決める
見積金額が安い理由は、たいてい説明できます。
範囲が狭い、テストが薄い、保守が含まれない、要件整理の支援がない。安い理由を必ず確認してください。
見積書の見方については、システム開発の見積書、どこを見ればいい?で詳しく解説しています。
議事録を開発会社任せにする
記録を相手だけが持っている状態は、避けたほうが安全です。
認識が食い違ったとき、確認する材料が相手側にしかないことになります。決定事項は自社でも控えておいてください。
稼働後の体制を決めていない
稼働してからが本番なのに、そこから先の話をしていないケースが多くあります。
問い合わせ窓口はどこか、対応時間は何時までか、障害時は誰に連絡するか、追加改修の費用はどう決まるか。契約前に確認すべき項目です。
明日からできる3つのこと
- 推進担当と、その人が使える時間を決める
「週に半日」と明示し、経営者から社内へ周知します。 - 予算に1〜2割の予備費を足す
想定外の変更に対応できる余地を残します。 - テストの時期を業務カレンダーと照合する
繁忙期と重なっていたら、今のうちにずらします。
よくある質問
IT知識がなくても管理できますか?
できます。ここで挙げた6項目は、どれも技術的な知識を必要としません。
目的、責任者、予算、期限、範囲、リスク。これらは他の事業投資と同じ管理項目です。
技術的な判断まで踏み込む必要はありません。
どのくらいの頻度で打ち合わせすべきですか?
開発中は隔週30分から1時間が目安です。
要件を決める時期とテスト期間は、もっと頻度を上げてください。判断待ちで止まる時間が最も無駄になります。
開発会社と揉めたときはどうすればいいですか?
まず、何が合意事項だったのかを記録で確認してください。
多くの場合、どちらかが悪いというより、合意した内容の解釈が食い違っています。記録があれば、事実に基づいて話ができます。
記録がない場合は、そこから先は感情論になりやすく、解決に時間がかかります。
まとめ|技術は任せ、判断は持つ
- 技術・設計・進め方は任せてよい。目的・体制・予算・期限・範囲・リスクは自社で持つ
- 開発会社は、存在を知らないことについては質問できない
- 推進担当の工数を確保するのは、経営者の仕事
- テストの負荷は代われない。繁忙期と重ねない
- 進捗は数字より、動いている画面で確認する
無事に稼働しても、そこで終わりではありません。
むしろ、良いシステムを作ったのに現場で使われないという問題が、ここから始まります。次回は定着の進め方を扱います。
経営課題の整理から、業務の見直し、システムの選定・導入・定着、効果測定、継続的な改善まで。中小企業がDXを進める一連の流れを14回に分けて解説しています。
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