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開発プロセス・進め方 2026.08.11

経営者・現場・システム会社の認識がズレる理由|DXの合意形成の進め方

IT・DX経営改善コラム 第09回|経営者・現場・システム会社の認識がズレる理由

同じプロジェクトを進めているのに、話がかみ合わない。

経営者は「まだできないのか」と言い、現場は「今のままでいい」と言い、開発会社は「決めてもらわないと進みません」と言う。

誰も間違ったことは言っていません。それぞれの立場から見れば、どれも正しい主張です。

問題は、見ているものが違うのに、同じ言葉で話していることにあります。

この記事では、立場ごとの視点の違いを整理し、認識を合わせる進め方を解説します。要件の整理方法については、要件定義は3層で考える|経営要求・業務要求・システム要求の分け方をご覧ください。

目次

5つの立場は、それぞれ違うものを見ている

システム導入に関わる人を、立場ごとに整理します。

立場気にしていること不安に思っていること成功の基準
経営者投資に見合う効果が出るか費用だけかかって終わらないか利益・売上・リスクが改善する
管理職部署の目標を達成できるか移行期間中に数字が落ちないか部門の生産性が上がる
現場担当者自分の仕事がどう変わるか覚え直す負担、仕事を失う不安作業が楽になる
IT担当運用を続けられるか自分だけに負荷が集中しないか安定して動き、管理できる
開発会社決めた範囲で完成できるか要望が際限なく増えないか期日と予算内で稼働する

この表で注目してほしいのは、「不安に思っていること」の列です。

反対意見や非協力的な態度の裏には、たいていこの不安があります。とくに現場担当者の「仕事を失う不安」は、本人からは絶対に言葉になりません。

代わりに「今のやり方のほうが速い」「うちの業務は特殊だから」という形で表れます。

同じ言葉が、違う意味で使われている

認識のズレは、単語レベルでも起きます。

言葉経営者の理解現場の理解開発会社の理解
「効率化」人件費が減ること自分の作業が楽になること処理時間が短縮されること
「すぐに」今期中今週中次の開発サイクル
「簡単に」説明なしで使えるクリック数が少ない実装工数が小さい
「一通り動く」業務が回る状態例外処理も含む状態主要機能が実装済み
「テスト」実際の業務で試す触ってみる仕様どおりか検証する

「一通り動きます」という報告を、全員が違う意味で受け取っている——これがトラブルの典型的な発生源です。

防ぐ方法は単純で、抽象的な言葉が出たら具体化することです。「一通り動く、というのは受注登録から請求書出力まで通しで試せる状態ですか」と確認する。

合意形成の進め方|4つのステップ

ステップ1|目的を1文にして、全員に配る

プロジェクトの目的を、A4用紙の1行で書きます。

「受注から請求までの二重入力をなくし、間接業務の負担を減らす」——この程度で構いません。

大事なのは、全員が同じ1文を見ていることです。会議のたびに冒頭で読み上げるくらいで、ちょうどよいと考えてください。

ステップ2|立場ごとの「うれしいこと」を言葉にする

目的が共通でも、それぞれの立場で得られるものは違います。

ここを言葉にしておくと、協力を得やすくなります。

立場この人にとってのメリット
経営者年60万円の人件費削減と、受注増に耐えられる体制
経理担当月末の残業が20時間から5時間に減る
営業担当受注状況を確認する電話がなくなる
IT担当Excelファイルの復旧依頼がなくなる

現場に説明するとき、経営目線のメリットだけを語っても響きません。その人の明日が、どう変わるのかを話してください。

ステップ3|決める人と、決め方を明確にする

意見が割れたときにどうするかを、事前に決めておきます。

  • 最終決定者:誰が決めるのか(多くの場合、経営者か部門責任者)
  • 判断の基準:迷ったら何を優先するか(例:現場の作業時間を優先する)
  • 決める場:いつ、どこで決めるのか(例:隔週の定例会議)
  • 記録の方法:決まったことをどこに残すか

2つ目の「判断の基準」が、実務上とても効きます。

「コストと使いやすさが対立したら、今回は使いやすさを取る」と決めておけば、個別の議論のたびに揉めずに済みます。

ステップ4|決まったことを、その場で見せる

会議で決まったことは、その場で画面に映すか、ホワイトボードに書いてください。

後で議事録を送る方式だと、認識のズレが発覚するのが数日後になります。その間に作業が進んでいれば、手戻りが発生します。

ズレは、その場で見つけるほど安く済みます。

現場の反対にどう向き合うか

現場からの抵抗は、DXが止まる最大の理由の一つです。

ただし、反対の中身をよく見ると、いくつかの種類に分かれます。対応も変わります。

反対の言葉本当の理由対応
今のやり方のほうが速い慣れの問題。実際に速いこともある実測して比べる。本当に速いなら残す
うちの業務は特殊だから例外処理への不安例外の種類を一緒に洗い出す
忙しくて時間がない優先順位が伝わっていない経営者から業務時間として確保すると伝える
前に失敗したから過去の経験による不信何が失敗だったかを聞き、対策を示す
無言・非協力仕事を失う不安、評価への不安役割がどう変わるかを個別に説明する

いちばん下の対応が、最も難しく、最も重要です。

効率化によって手が空いたとき、その人に何をしてもらうのか。ここを示さないまま進めると、協力は得られません。

「入力作業が減ったぶん、顧客への提案に時間を使ってほしい」と具体的に言えるかどうかで、反応は大きく変わります。

反対する人を、最初に巻き込む

逆説的ですが、最も反対しそうな人を、検討の初期から入れるのが有効です。

理由は2つあります。

  • その人はたいてい業務に詳しく、例外処理を知っている
  • 決まった後に伝えられると反対するが、決める過程にいれば当事者になる

ベテランほど反対しやすく、そしてベテランほど業務の実態を知っています。この人を敵に回すか味方にするかで、プロジェクトの難易度が変わります。

開発会社との認識を合わせる

社外との合意形成にも、固有の難しさがあります。

「言わなくても分かるはず」が通じない

自社では当たり前の商習慣も、外部には分かりません。

「月末締めの翌月末払い」「この取引先だけは単価が違う」「繁忙期は件数が3倍になる」。こうした前提は、言わなければ伝わらないと考えてください。

画面を見るまで、双方とも気づけない

文書だけで完全に認識を合わせるのは、実際には困難です。

だからこそ、早い段階で画面のイメージを見せてもらってください。紙に描いた簡単な図でも構いません。

実物を見て初めて「あ、そうじゃなくて」と気づくのは、発注側の落ち度ではありません。そのために早く見せるのが、正しい進め方です。

できないことを、はっきり言ってもらう

良い開発会社は、できないことや、やめたほうがいいことを言います。

すべての要望に「できます」と答える相手には注意が必要です。後で「あれは想定外でした」という話になりがちです。

ベンダー側の姿勢が問題になるケースについては、システムベンダーの「責任逃れ」が企業成長を阻む理由と対処法でも扱っています。

合意形成でよくある失敗

全員の合意を目指してしまう

全員が満足する案は、たいてい存在しません。

目指すべきは全員賛成ではなく、「納得はしていないが、決まったことには従う」という状態です。

そのためには、意見を言う機会があったこと、そして決定の理由が説明されたことが必要です。

経営者が最初の説明だけで姿を消す

キックオフには出るが、その後は担当者任せ。よくある形です。

しかし現場は、経営者の関心の度合いを見ています。関心が薄いと判断されれば、優先順位も下がります。

月1回、10分でも構いません。定例会議に顔を出すだけで、進み方が変わります。

決定事項が記録されていない

口頭で決めたことは、数週間後に必ず記憶が食い違います。

形式は問いません。決定事項・理由・決めた日付・決めた人。この4つが残っていれば十分です。

明日からできる3つのこと

  1. プロジェクトの目的を1文で書き、全員に配る
    会議のたびに読み上げるくらいで、ちょうどよい頻度です。
  2. 立場ごとのメリットを1行ずつ書く
    現場向けには「あなたの明日がどう変わるか」を書きます。
  3. 最も反対しそうな人を、次の打ち合わせに呼ぶ
    業務に最も詳しい人でもあります。

よくある質問

現場がどうしても反対する場合はどうすればいいですか?

まず、反対の理由を具体的に聞いてください。

「使いにくい」なら、どの操作が何回増えるのかを確認します。実測すると、本当に負担が増えている場合もあります。その場合は設計を直すべきです。

一方、慣れの問題であれば、移行期間を長めに取り、サポートを厚くすることで解決します。理由が分からないまま押し切るのが、最も失敗しやすい進め方です。

推進担当が孤立してしまいます

担当者1人に任せると、必ずこうなります。

対策は2つです。経営者が「これは会社の方針だ」と明言することと、各部署に協力者を1人ずつ置くことです。

担当者が個人の立場で他部署に依頼する構図になると、そこで止まります。

会議が多すぎて疲弊します

全員が集まる会議は、隔週30分で十分なことが多いです。

個別の確認は、関係者だけで短時間に済ませてください。全員を毎回集めると、参加者の負担が増え、次第に欠席が増えます。

まとめ|見ているものが違う前提で話す

  • 立場ごとに、気にしていることも不安も成功の基準も違う
  • 「効率化」「すぐに」「簡単に」は、人によって意味が違う
  • 目的を1文にして、全員が同じものを見る状態を作る
  • 現場には「あなたの明日がどう変わるか」を話す
  • 最も反対しそうな人を、最初から巻き込む

関係者の認識が揃ったら、次はプロジェクトを実際に動かす段階です。

ここで多くの会社がやってしまうのが、開発会社への丸投げです。次回は、発注側が管理すべきことを扱います。

【連載】IT・DX経営改善コラム 全14回

経営課題の整理から、業務の見直し、システムの選定・導入・定着、効果測定、継続的な改善まで。中小企業がDXを進める一連の流れを14回に分けて解説しています。

  1. システム導入前に経営課題を整理する方法
  2. 業務の見える化の進め方|現状分析(As-Is)
  3. To-Be(理想の業務)の描き方
  4. DX施策の優先順位の決め方
  5. その業務、本当に必要ですか?
  6. 中小企業のDXは小さく始める
  7. 業務課題の解決手段は7つある
  8. 要件定義は3層で考える
  9. 経営者・現場・システム会社の認識がズレる理由
  10. システム開発の丸投げが失敗する理由
  11. 良いシステムが現場で使われない理由
  12. DXの効果測定|KGI・KPIの決め方
  13. システム導入はゴールではない
  14. 中小企業のDX推進ロードマップ(総まとめ)

みんなシステムズでは、社内の合意形成が難しい段階からのご相談も承っています。現場ヒアリングへの同席なども含め、状況に応じてお手伝いできますので、お気軽にお問い合わせください。

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