現状を洗い出し、理想の姿を描いた結果、課題が20個出てきた。
ここまで来た会社が、次にぶつかる壁がこれです。
どれも解決したい。どれも困っている。しかし予算にも人手にも限りがあります。
中小企業のDXが失敗する最大の原因は、優先順位をつけずに全部やろうとすることです。
この記事では、出そろった課題に順番をつける具体的な方法を解説します。課題の洗い出し方については、To-Be(理想の業務)の描き方|As-Isとのギャップから課題を出す方法をご覧ください。
なぜ「全部やる」と失敗するのか
理由は3つあります。
予算と期間が一気に膨らむ
対象範囲が広がると、費用は足し算ではなく掛け算で増えます。
部署をまたぐほど調整が必要になり、決めることも増え、テストの範囲も広がるためです。
現場が一度に受け止められない
新しいやり方を覚えるのは、それ自体が負担です。
受注も、在庫も、請求も、同じ月にすべて変わったら、現場は通常業務を回しながら3つの変化に対応することになります。たいてい、どれも中途半端になります。
効果が分からなくなる
同時に5つ変えると、成果が出ても、失敗しても、何が効いたのか分かりません。
次の判断材料が得られないという意味で、これは長期的に大きな損失です。
優先順位を決める6つの評価軸
課題に順番をつけるとき、次の6つで評価します。
| 評価軸 | 問い | 高くなるケース |
|---|---|---|
| 経営インパクト | 解決すると利益・売上にどう効くか | 年間100万円以上の削減や増収が見込める |
| 緊急度 | 放置するとどうなるか | 担当者の退職予定、法改正、取引先の要請がある |
| 改善効果 | どれだけ状況が良くなるか | 作業時間が半分以下になる |
| コスト | いくらかかるか | 低いほど高評価 |
| 実現可能性 | 技術的・体制的にできるか | 既存サービスで対応でき、社内に推進役がいる |
| 現場負担 | 移行時にどれだけ手間がかかるか | 低いほど高評価 |
この6つのうち、中小企業が特に重視すべきなのは「実現可能性」と「現場負担」です。
大企業と違い、専任担当を置けないケースがほとんどだからです。どれだけ効果が大きくても、進める人がいなければ計画は止まります。
「経営インパクト」の測り方
金額に換算するのが基本です。難しく考えず、次の3つを足せば十分です。
- 削減できる時間 × 社内の時間単価(例:月20時間 × 2,500円 × 12か月=60万円)
- ミスによる損失(請求漏れ、再作業、クレーム対応の人件費)
- 取りこぼしている売上(対応が遅れて失注した件数 × 平均単価)
3つ目の「取りこぼし」は見落とされがちですが、金額としては最も大きくなることがあります。
スコアリングの手順
評価軸が決まったら、点数をつけます。手順は3つです。
手順1|3段階で点数をつける
5段階や10段階にすると、迷って進みません。3点・2点・1点の3段階で十分です。
コストと現場負担は、低いほうが良いので点数を逆にします(低い=3点)。
| 課題 | 経営インパクト | 緊急度 | 改善効果 | コストの低さ | 実現可能性 | 負担の軽さ | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 受注情報の二重入力 | 3 | 2 | 3 | 2 | 3 | 3 | 16 |
| 在庫情報の共有 | 3 | 3 | 3 | 1 | 2 | 1 | 13 |
| 値引き判断の属人化 | 2 | 3 | 2 | 3 | 2 | 2 | 14 |
| 顧客情報の一元化 | 2 | 1 | 2 | 1 | 1 | 1 | 8 |
| 請求書の電子化 | 1 | 3 | 1 | 3 | 3 | 3 | 14 |
手順2|合計点で並べ替える
上の例なら、着手順は「受注情報の二重入力(16点)」からになります。
注目してほしいのは「在庫情報の共有」です。経営インパクトも緊急度も改善効果も満点なのに、コストと現場負担が重いため13点にとどまりました。
重要な課題が、必ずしも最初にやるべき課題とは限りません。
手順3|点数を無視する項目を決める
ただし、点数だけで決めてはいけない例外があります。
- 法令や制度で対応が必須のもの(点数に関係なく最優先)
- 担当者の退職が決まっている業務(期限が動かせない)
- 他の課題の前提になっているもの(データの整理など、先にやらないと後が進まない)
3つ目は特に見落とされます。顧客情報がバラバラのままでは、その先の施策がすべて中途半端になる、という構造はよくあります。
最初の1本は「効果」より「成功しやすさ」で選ぶ
ここが、中小企業のDXで最も実践的なアドバイスかもしれません。
最初の1本は、最も効果が大きいものではなく、確実に成功して、成果が目に見えるものを選んでください。
| 条件 | 理由 |
|---|---|
| 3〜6か月で完了する | 長引くと現場の関心が薄れ、担当者も異動しうる |
| 関わる部署が1〜2に収まる | 調整コストが小さく、意思決定が速い |
| 効果が数字で見える | 次の投資を承認してもらう材料になる |
| 現場が「楽になった」と実感できる | 協力が得られ、2本目以降が進めやすくなる |
1本目の目的は、課題を解決することだけではありません。
「うちでもできる」という実感を社内に作ることが、それと同じくらい重要な成果です。
実際に段階を分けて進めた例
ホワイトボードと複数のExcelで配車・請求・入金を管理していた運送会社の案件では、これらを一つの仕組みにまとめる計画でした。
ただし、日々の業務を止めるわけにはいきません。そこで、通常業務と並行しながら段階的に機能を移行する進め方を取りました。
- まず配車管理から使い始める
- 慣れてきたところで請求書へ範囲を広げる
- 最後に入金・売掛金管理へ広げる
既存の管理方法をある日突然すべて置き換えるのではなく、順番に移していく。現場に一度に大きな負担をかけないことは、業務システムを入れるうえで欠かせない配慮です。
この事例の詳細は、以下のページでご覧いただけます。

優先順位づけでよくある失敗
声の大きい人の課題が最優先になる
会議で強く主張した人の課題が通ってしまう、という現象です。
本人に悪気はありません。困っているのは事実だからです。ただ、それが会社全体で見て最優先かどうかは別の話です。
点数をつける作業は、この力関係を切り離すためにあります。
評価軸を後から変えてしまう
点数をつけた結果が思っていた順番と違ったとき、軸のほうを変えたくなります。
結果が直感と違うなら、まず直感のほうが正しい理由を言葉にしてみてください。言語化できるなら、それは足りない評価軸だったということです。言語化できないなら、点数を信じたほうが安全です。
「やらないこと」を決めていない
優先順位をつけるとは、順番を決めることであると同時に、今回はやらないものを決めることです。
「今回は対象外」と明記しておかないと、進行中に「ついでにこれも」という話が必ず出ます。
1年先まで固定してしまう
優先順位は、状況が変われば変わります。
1本目が終わった時点で、見えている景色は変わっているはずです。半年に一度は点数を付け直すくらいの前提で運用してください。
明日からできる3つのこと
- 課題を紙に書き出して並べる
10個前後で構いません。多すぎる場合は、明らかに小さいものを先に外します。 - 6つの軸で3段階の点数をつける
1つの課題につき1分。迷ったら2点にして先へ進みます。 - 上位3つ以外に「今回は対象外」と書き込む
これを書くことが、実は最も重要な意思決定です。
よくある質問
点数が同じになった場合はどうすればいいですか?
実現可能性が高いほうを選んでください。
同点なら、確実に終わるほうを先にやったほうが、次につながります。
経営者と現場で優先順位が食い違います
よくあることです。見ている時間の長さが違うためです。
経営者は数年先の構造を、現場は今日の負担を見ています。どちらも正しいので、「1本目は現場の負担が減るもの、2本目は経営インパクトが大きいもの」という組み合わせ方が現実的です。
課題が3つしかない場合も点数をつけるべきですか?
3つなら不要です。順番を話し合って決めれば足ります。
スコアリングが力を発揮するのは、10個以上あって議論が発散するときです。
まとめ|順番を決めることは、やらないことを決めること
限られた予算と人手で成果を出すには、選ぶしかありません。
- 全部やろうとすると、予算・現場・効果測定のすべてが破綻する
- 経営インパクト・緊急度・改善効果・コスト・実現性・現場負担の6軸で見る
- 3段階で点数をつけ、合計で並べる
- 最初の1本は、効果の大きさより成功しやすさで選ぶ
- 「今回はやらないこと」を明記する
着手する課題が決まったら、次はいよいよ解決策の検討、の前に、もう一つ確認すべきことがあります。
その業務、そもそも本当に必要でしょうか。次回はこのテーマを扱います。
経営課題の整理から、業務の見直し、システムの選定・導入・定着、効果測定、継続的な改善まで。中小企業がDXを進める一連の流れを14回に分けて解説しています。
みんなシステムズでは、課題の優先順位づけや投資判断の段階からご相談を承っています。「どこから手を付けるべきか判断できない」という場合も、お気軽にお問い合わせください。