「今のシステム開発会社と連絡が取りづらくなってきた」
「担当者が辞めてしまい、システムの中身が分かる人がいない」
システムは何年も使い続けるものです。
その間に、開発会社の変更や担当者の交代など、システム開発の引き継ぎ(引継ぎ)が必要になる場面はほぼ必ず出てきます。
そして、引き継ぎは「ソースコードを渡せば終わり」ではありません。
権利・アカウント・資料・運用の知識まで渡せていないと、引き継いだ後に開発が止まります。
この記事では、他社が作ったシステムの引き継ぎを受託している開発会社の立場から、次の内容を整理します。
- 引き継ぎで何を渡してもらう必要があるのか
- 引き継ぎの進め方(6ステップ)と、失敗しないための5つのポイント
- 前の開発会社が協力してくれない・連絡が取れないときの対処
- 引き継ぐか、作り直すかの判断基準と、引き継ぎ前のチェックリスト
システム開発の引き継ぎとは|何を引き継ぐのか
システム開発の引き継ぎとは、システムを改修・運用し続けるために必要なものを、前の担い手から新しい担い手へすべて移すことです。
引き継ぐものは、大きく5つに分けられます。
| 分類 | 具体的なもの | ないと起きること |
|---|---|---|
| 権利・契約 | ソースコードの著作権、利用許諾、外部サービスの契約名義 | 改修してよいか分からず、手を付けられない |
| アカウント | サーバー・クラウド、ドメイン、SSL、管理画面、外部サービスの管理者権限 | サーバーに入れない、更新期限が切れてサイトが止まる |
| ソースコード・環境 | 最新のソースコード、環境構築手順、リリース手順 | どれが本番のコードか分からない、変更を反映できない |
| 資料 | 仕様書、画面一覧、テーブル定義書、サーバー構成図 | 調査だけで長い時間がかかる |
| 運用の知識 | 定期作業、過去の障害と対応、「なぜこの作りなのか」という経緯 | 想定外の不具合が出る、同じ障害をくり返す |
このうち、後から取り戻すのが最も難しいのが権利・アカウントと、運用の知識です。
ソースコードは解析すれば読めますが、名義が前の会社のままのアカウントや、担当者の頭の中にしかない経緯は、前の会社の協力なしには手に入りません。
引き継ぎが必要になる4つのケース
| ケース | よくある状況 | 前の担い手の協力 |
|---|---|---|
| 開発会社を変更する | 対応が遅い、費用が高い、連絡が取りづらい、事業の方針にシステムが合わない | 得られることが多いが、関係が悪化していると難しい |
| 開発会社が撤退・廃業する | 事業縮小や倒産で、保守を続けてもらえなくなった | 期間が限られる、または得られない |
| 社内の担当者が交代する | 発注側の担当者が異動・退職し、経緯を知る人がいなくなった | 退職前なら得られる |
| 内製と外注を切り替える | 社内エンジニアの退職や体制の見直しで、開発の担い手が変わる | 社内なので調整しやすい |
どのケースでも「システムの中身を知っている人がいなくなる」点は同じです。
違うのは、前の担い手の協力がどこまで得られるかです。
協力が得られるうちに動き始めるほど、引き継ぎは楽になります。
社内担当者の退職についてはシステム担当者退職とは?企業が直面する課題を解説も参考にしてください。
システム開発の引き継ぎでよくあるトラブル
- ソースコードやサーバーの権限がもらえず、開発が止まる
- 受け取ったソースコードが最新版ではなく、本番と動きが違う
- 設計書やマニュアルがなく、仕様の調査だけで多くの時間がかかる
- 前の会社しか知らない設定や定期作業があり、想定外の不具合が出る
- ドメインや外部サービスの契約が前の会社名義で、移管に手間取る
- データを取り出す方法が分からず、移行の計画が立たない
どれも、事前の確認と段取りで防げるか、影響を小さくできます。
データが取り出せない問題はシステム移行したいのにデータが取り出せない!データ抽出独占の罠と脱出法で詳しく解説しています。
システム開発の引き継ぎの進め方|6ステップ
引き継ぎは、次の順番で進めると手戻りが少なくなります。
| ステップ | やること | 主に動く人 |
|---|---|---|
| ① 現状の把握 | 契約書・アカウントの名義・手元にある資料を洗い出す | 発注側 |
| ② 前の会社への依頼 | 引き継ぎの意向を伝え、渡してもらうものと期間を相談する | 発注側 |
| ③ 引き継ぎ先の選定 | 他社システムの引き継ぎ実績がある会社に相談する | 発注側 |
| ④ 調査 | ソースコード・サーバー・データを調べ、仕様と課題を資料にまとめる | 引き継ぎ先 |
| ⑤ 並走期間 | 前の会社に質問しながら、引き継ぎ先が実際の作業を担当してみる | 前の会社・引き継ぎ先 |
| ⑥ 体制の確定 | アカウントの名義を移し、保守の範囲・費用・連絡方法を決める | 発注側・引き継ぎ先 |
① 現状の把握
まず自社の手元に何があるかを確認します。
特に大事なのは、契約書に書かれたソースコードの著作権の扱いと、サーバー・ドメイン・外部サービスが誰の名義で契約されているかです。
この時点で「何が足りないか」が分かれば、次のステップで前の会社に依頼する内容がはっきりします。
② 前の会社への依頼
前の会社には、渡してほしいものを一覧にして依頼します。
「引き継ぎに協力してください」とだけ伝えると、何をどこまで渡すかで認識がずれがちです。
- 本番で動いている最新のソースコード一式
- サーバー・ドメイン・外部サービスの管理者アカウント(または名義変更の手続き)
- 手元にある仕様書・設計書・マニュアル(未完成のものでも可)
- 定期的に行っている作業と、過去の障害の記録
- 引き継ぎ期間中の質問対応(期間と費用)
並走期間の質問対応は、前の会社にとっても工数がかかる作業です。
有償で依頼する前提で相談すると、協力を得やすくなります。
③〜④ 引き継ぎ先の選定と調査
引き継ぎ先の会社は、最初にシステムの調査を行います。
ソースコード・サーバー・データベースを読み、どんな仕様で、どこに問題があり、改修にどれくらいかかるのかを資料にまとめる工程です。
調査の前に保守費用や改修費用を確定させるのは難しいため、調査を独立した工程として見積もり、結果を見てから本契約に進むのが安全です。
⑤〜⑥ 並走期間と体制の確定
前の会社との契約が切れてから引き継ぎを始めるのでは遅すぎます。
理想は、前の会社と引き継ぎ先が1〜3か月ほど並走できる期間を確保することです。
並走中に、引き継ぎ先が実際の問い合わせ対応や小さな改修を担当してみると、資料に書かれていない作業が見つかります。
並走が終わったら、アカウントの名義を自社または引き継ぎ先に移し、保守の範囲・連絡方法・費用を契約で決めて完了です。
保守契約で確認すべき点はWebシステム保守の外注先選び|契約前に確認すべき5つのSLAで解説しています。
引き継ぎで失敗しない5つのポイント
| ポイント | 確認すること |
|---|---|
| ① 成果物の所有権と権限を確認する | ソースコード・サーバー・ドメインなどが自社のものになっているか |
| ② 資料をそろえる | 仕様書・マニュアルなど、システムを理解するための資料があるか |
| ③ 引き継ぎ期間を確保する | 前の会社と新しい会社が並走できる期間があるか |
| ④ 引き継ぎに慣れた会社を選ぶ | 他社が作ったシステムを引き継いだ実績があるか |
| ⑤ 引き継ぎ後の体制を決めておく | 保守の範囲・連絡方法・費用が明確になっているか |
① 成果物の所有権と権限を確認する
契約書で「著作権は開発会社に帰属する」となっている場合、ソースコードを自由に改修できないことがあります。
まずは契約書と、各種アカウントの名義を確認しましょう。
判断に迷う条項がある場合は、弁護士など専門家への確認をおすすめします。
② システムを理解するための資料をそろえる
最低限、仕様書、画面一覧・機能一覧、テーブル定義書、サーバー構成図、運用マニュアルがあると引き継ぎが進めやすくなります。
とはいえ、担当者が何度も変わるうちに資料が失われ、完全にそろっているケースのほうが珍しいのが実情です。
足りない場合は、前の会社に準ずるものを出してもらうか、引き継ぎ先の調査で作り起こします。
③ 引き継ぎ期間を確保する
前の会社との関係が悪化している場合でも、「最低限の質問対応だけはお願いする」など落としどころを探っておくと、調査の手戻りを大きく減らせます。
質問事項はまとめて渡すと、相手の負担も減ります。
④ 引き継ぎに慣れた開発会社を選ぶ
自社で一から作るのと、他社のコードを読んで改修するのとでは、必要なスキルが違います。
相談の段階で、次の点を見ておくと安心です。
- 調査→資料化→改修という進め方を、具体的に説明してくれるか
- 使われている言語・フレームワークに対応できるか
- 「まずは調査から」と段階的な提案をしてくれるか
調査もしないうちに「全部作り直しましょう」と提案してくる場合は、少し立ち止まって検討したほうがよいでしょう。
⑤ 引き継ぎ後の体制を決めておく
引き継ぎ後に誰が・どこまで・いくらで対応するのかを決めておかないと、後で問題になります。
保守の範囲(障害対応のみか、小さな改修も含むか)、連絡方法と対応時間、月々の保守費用を契約で明確にしておきましょう。
前の開発会社が協力してくれない・連絡が取れないとき
「前の会社と揉めていて資料を出してもらえない」「開発会社と突然連絡が取れなくなった」というご相談も少なくありません。
この場合も、引き継ぎを諦める必要はありません。
- 自社名義で取り戻せるものから押さえる:ドメインやクラウドの契約は、名義人であれば事業者に直接手続きできることがあります
- 契約書の権利条項を確認する:成果物の引き渡し義務や著作権の扱いが書かれていれば、それを根拠に依頼できます。対応が難しい場合は弁護士に相談します
- 動いているシステムと現場の業務から仕様を作り起こす:資料がなくても、画面・データ・帳票・現場の運用から仕様は復元できます
当社でも、開発の途中で前の開発会社と連絡が取れなくなった案件がありました。
ソースコードもない状態から、残った設計資料と現場の帳票をもとに受発注管理システムを再構築しています。
詳しくは開発会社が無くなった…そんな時の対処法|引き継ぎ新規開発で受注管理を再構築をご覧ください。
データを人質に取られている状態からの脱却は自社のデータなのにアクセスできない?「データ人質」状態から脱却する方法で解説しています。
引き継ぐか、作り直すかの判断基準
引き継ぎの調査をすると、「このまま引き継いで改修するか、作り直すか」の判断が必要になることがあります。
目安は次のとおりです。
| 判断の軸 | 引き継いで改修する | 作り直しを検討する |
|---|---|---|
| ソースコード | 最新版が手元にあり、読める | 手元にない、または本番と一致しない |
| 技術の古さ | 言語・フレームワークがサポート期間内 | サポートが終了し、セキュリティ更新が受けられない |
| 業務との合い方 | 今の業務に概ね合っている | 業務が大きく変わり、改修箇所が全体に及ぶ |
| 改修の見積もり | 作り直しより明らかに安い | 改修費が作り直しに近い、またはくり返し発生している |
作り直す場合でも、今のシステムのデータと、現場で使われている運用ルールは貴重な資産です。
移行の進め方はシステム刷新とはの記事も参考にしてください。
引き継ぎ前に準備したいチェックリスト
- ソースコードの著作権が自社にあるか(契約書を確認)
- 本番で動いているソースコードの最新版を受け取れるか
- サーバー・ドメイン・外部サービスの名義と管理者アカウントを把握しているか
- ドメインやSSL証明書の更新期限を把握しているか
- 設計書・仕様書・マニュアルがあるか(未完成でもよい)
- 環境構築手順・リリース手順があるか
- 定期作業と過去の障害の記録があるか
- 前の会社と並走できる期間を確保できるか
- 新しい会社に他社システムの引き継ぎ実績があるか
- 引き継ぎ後の保守範囲・費用・連絡方法が決まっているか
すべてそろっていなくても大丈夫です。
「何が足りないか」が分かるだけで、引き継ぎ先との相談が進めやすくなります。
また、これから新しくシステムを作る場合は、資料一式とアカウントの名義を、開発中またはリリース直後に受け取っておくことが、将来の引き継ぎへの一番の備えになります。
よくある質問
Q. 設計書が何もなくても引き継いでもらえますか?
A. 可能です。
ソースコード・データベース・画面を調査し、仕様を資料として作り起こすところから始めます。
ソースコードもない場合は、動いているシステムや現場の帳票から仕様を復元します。
Q. 引き継ぎにはどれくらいの期間がかかりますか?
A. システムの規模と資料の有無で変わります。
調査に数週間、並走に1〜3か月程度を見ておくと、無理のない計画になります。
前の会社との契約終了日から逆算して、早めに動き始めることが大切です。
Q. 引き継ぎの費用はどう決まりますか?
A. 主に、調査の工数、並走期間中の前の会社への質問対応費、引き継ぎ後の保守費で決まります。
調査を先に行うことで、その後の改修や保守の見積もりを正確に出せるようになります。
Q. 開発の途中で止まったシステムも引き継げますか?
A. 対応できる場合があります。
当社でも、開発途中で前の会社と連絡が取れなくなった案件を、残った資料と現場の業務をもとに再構築した実績があります。
まとめ
- 引き継ぐのはソースコードだけではない。権利・アカウント・資料・運用の知識まで含めて渡してもらう
- 進め方は、現状把握→前の会社への依頼→引き継ぎ先の選定→調査→並走→体制確定の6ステップ
- 前の会社の協力が得られるうちに動き始め、1〜3か月の並走期間を確保する
- 協力が得られなくても、自社名義のものの回収と、現場からの仕様の作り起こしで引き継ぎはできる
- 調査の結果をもとに、引き継いで改修するか作り直すかを判断する
「今の開発会社から引き継ぎたいが、何から手をつければいいか分からない」「資料が何もない状態でも引き継いでもらえるか相談したい」といったご相談も承っています。
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