「DXを進めたいが、何から手を付ければいいか分からない」
この問いに答えるため、経営課題の整理から継続的な改善まで、13回にわたって各段階を解説してきました。
最終回となる今回は、その全体をひとつの地図にまとめます。
自社が今どの段階にいるのか、次に何をすべきかを確認する目安としてお使いください。
全体の流れ|4つの段階
中小企業がDXを進めるときの流れは、大きく4つの段階に分かれます。
| 段階 | 工程 | ここで決めること | 期間の目安 |
|---|---|---|---|
| Ⅰ 見極める | 経営課題の整理/現状分析/理想像/優先順位 | 何を、なぜ、どの順で解決するか | 1〜3か月 |
| Ⅱ 準備する | 業務見直し/進め方/手段の選定/要件整理 | どう解決するか | 1〜3か月 |
| Ⅲ 実行する | 合意形成/プロジェクト管理/導入・定着 | どう作り、どう使ってもらうか | 3〜12か月 |
| Ⅳ 育てる | 効果測定/継続的改善 | 効果が出たか、次に何をするか | 継続 |
この順番には意味があります。
多くの会社が、Ⅰ段階を飛ばしてⅡやⅢから始めます。「システムを探す」「開発会社に相談する」から入るパターンです。
失敗の大半は、この段階の飛ばしから生まれます。
Ⅰ|見極める段階
何を解決すべきかを決める段階です。ITの知識はまだ必要ありません。
1|経営課題を整理する
「Excelが大変」は現象であって、経営課題ではありません。
事実 → 影響 → 数字 → 放置した場合、の4ステップで、投資判断ができる形に変換します。
詳しくはシステム導入前に経営課題を整理する方法|IT課題との違いと変換手順をご覧ください。
2|現状を見える化する
1件の仕事を最初から最後まで追いかけ、二重入力・転記・待ち・確認・探す・属人化・手戻りを探します。
詳しくは業務の見える化の進め方|現状分析(As-Is)で見るべき5つの手順をご覧ください。
3|理想の業務を決める
「どういう状態になれば成功か」を、動作と数字で書きます。現状との差が、そのまま課題になります。
詳しくはTo-Be(理想の業務)の描き方|As-Isとのギャップから課題を出す方法をご覧ください。
4|優先順位を決める
経営インパクト・緊急度・改善効果・コスト・実現性・現場負担の6軸で点数をつけ、着手順を決めます。
詳しくはDX施策の優先順位の決め方|6つの評価軸とスコアリングの手順をご覧ください。
Ⅱ|準備する段階
どう解決するかを決める段階です。ここで手段を急がないことが重要です。
5|業務そのものを見直す
やめる → まとめる → 順番を変える → 単純にする → 標準化する、の順で検討します。自動化は最後です。
詳しくはその業務、本当に必要ですか?システム化前に業務を見直す5つの視点をご覧ください。
6|小さく始める計画を立てる
範囲は絞り、質は落とさない。後続業務の土台になるデータから着手すると、2本目が楽になります。
詳しくは中小企業のDXは小さく始める|試験導入から横展開までの進め方をご覧ください。
7|実現手段を選ぶ
Excel改善からスクラッチ開発まで、選択肢は7つあります。安いものから順に「できない理由」を探します。
詳しくは業務課題の解決手段は7つある|Excel改善からスクラッチ開発までの選び方をご覧ください。
8|要件を整理する
経営要求・業務要求・システム要求の3層に分けます。「こんな画面が欲しい」から始めないことが要点です。
詳しくは要件定義は3層で考える|経営要求・業務要求・システム要求の分け方をご覧ください。
Ⅲ|実行する段階
実際に作り、使ってもらう段階です。技術より、人に関する問題が中心になります。
9|関係者の認識を合わせる
経営者・現場・開発会社は、それぞれ違うものを見ています。「効率化」という言葉すら、意味が違います。
詳しくは経営者・現場・システム会社の認識がズレる理由|DXの合意形成の進め方をご覧ください。
10|プロジェクトを管理する
技術は任せてよい一方、目的・責任者・予算・期限・要件・リスクの6項目は自社で持ちます。
詳しくはシステム開発の丸投げが失敗する理由|発注側が管理すべき6項目をご覧ください。
11|現場に定着させる
導入の失敗は「動かない」より「使われない」ほうが多いのが実情です。旧方式を止める日を決めることが決め手になります。
詳しくは良いシステムが現場で使われない理由|導入後の定着を進める5つの方法をご覧ください。
Ⅳ|育てる段階
12|効果を測る
KGIとKPIを決め、導入前の数字を取っておきます。導入前に測らなければ、効果は永久に証明できません。
詳しくはDXの効果測定|KGI・KPIの決め方と導入前に測るべき5項目をご覧ください。
13|改善を続ける
業務は変わり続けます。要望を集める場を常時開き、四半期ごとにまとめて改修します。
詳しくはシステム導入はゴールではない|稼働後の改善サイクルの回し方をご覧ください。
14|次のテーマへ戻る
1本目が終わったら、また最初の段階へ戻ります。
ただし2周目は、はるかに速く回ります。1周目で得た「自社の課題を整理する力」は、その後ずっと使える資産になります。
自社は今どこにいるか|段階の見分け方
| 今の状態 | いる段階 | 次にやること |
|---|---|---|
| 何から手を付けるか分からない | Ⅰの入口 | 困りごとを事実と数字で書き出す |
| 課題は分かったが、どれからか決まらない | Ⅰの後半 | 6軸で点数をつけて並べる |
| やることは決まった。手段を探している | Ⅱ | その前に、業務自体を見直す |
| 見積もりを取っているが判断できない | Ⅱの後半 | 要件を3層に整理し直す |
| 開発が始まったが、進捗が見えない | Ⅲ | 動いている画面を見せてもらう |
| 稼働したが、現場が使っていない | Ⅲの後半 | 使わない理由を聞き、旧方式を止める |
| 効果があったのか分からない | Ⅳ | 今からでも測れる指標を決める |
3行目に注目してください。
「やることが決まった、次はシステム選び」と考えがちですが、その前に業務そのものを見直す工程が入ります。ここを飛ばすと、非効率をそのまま作り込むことになります。
シリーズ全体を貫く5つの考え方
13回を通じて、繰り返し出てきた原則をまとめます。
| 原則 | 意味すること |
|---|---|
| 経営が目的、ITは手段 | 「何を良くしたいか」が先。ツールは後から選ぶ |
| 現象ではなく課題を見る | 困りごとの裏にある構造と、放置したときの損失まで見る |
| 作る前に、業務を整える | システム化は業務の形を固定する行為でもある |
| 小さく始めて、確かめて広げる | 計画が長いほど、前提が崩れる確率は上がる |
| 導入して終わりにしない | 測り、直し、また測る。その繰り返しが成果を作る |
この5つは、技術がどれだけ変わっても通用する考え方です。
新しいツールは次々に登場しますが、「自社の何を良くしたいのか」を決めるのは、いつの時代も自社の仕事です。
まず、今週やること
全体像を読んで「大変そうだ」と感じたかもしれません。
ただ、最初の一歩は非常に小さくて構いません。
- 毎月必ず発生する業務を1つ選ぶ
件数が多く、複数の人が関わっているものが適しています。 - その業務の1件を、最初から最後まで追いかける
半日あれば足ります。誰が、何を、どこからどこへ運んでいるかを書き留めます。 - 同じ情報を2回以上入力している箇所を探す
見つかれば、それが最初の改善候補です。
これだけで、Ⅰ段階の入口には立てます。
よくある質問
全部の工程をやらないといけませんか?
規模によります。小さな改善なら、Ⅰの一部とⅡだけで済むこともあります。
ただし、Ⅰの「何のためにやるか」と、Ⅳの「効果を測る」は、規模に関わらず必要です。この2つを飛ばすと、やったことの良し悪しが分からなくなります。
全体でどのくらいの期間がかかりますか?
1つの業務に絞れば、Ⅰの開始から稼働まで6か月から1年程度が目安です。
このうちⅠとⅡで2〜6か月を使います。長く感じるかもしれませんが、ここに時間をかけたほうが、結果的に総期間は短くなります。急いで作って作り直すのが、最も時間を失う進め方です。
社内に推進できる人材がいません
必要なのはIT人材ではなく、自社の業務を理解していて、社内を動かせる人です。
技術的な部分は外部に相談できますが、業務の実態と社内の事情は外部には分かりません。総務や経理の実務担当者が推進役になるケースは多くあります。
途中でつまずいたら、どこへ戻ればいいですか?
1つ前の段階へ戻ってください。
要件が決まらないなら、理想像が曖昧です。理想像が描けないなら、現状把握が足りていません。現場が協力しないなら、目的が伝わっていません。
つまずきの原因は、たいてい1つ前の段階にあります。
まとめ|DXとは、新しいシステムを入れることではない
このシリーズで一貫してお伝えしてきたのは、次のことです。
- DXとは、新しいシステムを導入することではない
- まず経営課題と現場の実態を理解する必要がある
- 業務を整理してから、ITを選ぶ
- 小さく導入して、効果を測る
- 導入後も改善し続ける
システム導入がうまくいかない会社の多くは、技術の選び方を間違えたわけではありません。
解くべき問題が決まらないまま、解き方だけを先に選んでしまった。それだけのことです。
順番さえ守れていれば、多少の回り道は取り返せます。
まずは1つの業務から、現状を書き出すところから始めてみてください。
経営課題の整理から、業務の見直し、システムの選定・導入・定着、効果測定、継続的な改善まで。中小企業がDXを進める一連の流れを14回に分けて解説しています。
みんなシステムズでは、この地図のどの段階からでもご相談を承っています。「何が課題なのかを整理するところから相談したい」「導入したシステムがうまく使われていない」など、状況に応じてお手伝いできますので、お気軽にお問い合わせください。