「システムを入れて、どうなりました?」
この質問に、「まあ、便利にはなりましたね」としか答えられない会社は少なくありません。
本当に便利になったのかもしれません。ただ、それを示す材料がないと、次の投資判断ができません。
効果測定ができないと、DXは1回きりの取り組みで終わります。
この記事では、何を、いつ、どう測るかを解説します。定着の進め方については、良いシステムが現場で使われない理由|導入後の定着を進める5つの方法をご覧ください。
KGIとKPIは何が違うのか
効果測定の話には、必ずこの2つの言葉が出てきます。難しくありません。
| 用語 | 意味 | 例 | 確認の頻度 |
|---|---|---|---|
| KGI(最終目標) | 最終的に達成したい成果 | 利益率を3%改善する | 半年〜1年 |
| KPI(中間指標) | そこへ向かっているかを測る数字 | 月末集計を20時間から5時間に | 毎月 |
KGIは会社が達成したいこと、KPIはその手前にある、動かせる数字だと考えてください。
利益率は、直接どうにかできるものではありません。しかし作業時間や入力ミスの件数なら、現場の取り組みで動かせます。
KPIは「つながっているか」で選ぶ
KPIを選ぶときの基準は、ただ一つです。
その数字が良くなったら、KGIも良くなると言えるか。
| KGI | 良いKPI | つながりの薄いKPI |
|---|---|---|
| 利益率を改善する | 間接業務の作業時間 | システムのログイン回数 |
| 受注増に耐える体制を作る | 1件あたりの処理時間 | 登録されたデータ件数 |
| 顧客対応の質を上げる | 問い合わせから回答までの時間 | 顧客情報の登録項目数 |
| 事業継続のリスクを下げる | その業務を担当できる人数 | マニュアルのページ数 |
右側の指標は、測れば数字は出ます。しかし、増えたところで会社が良くなるとは限りません。
測りやすい数字ではなく、意味のある数字を選んでください。
導入前に測らないと、効果は測れない
これが、効果測定における最大の落とし穴です。
導入後に「作業時間は何分ですか」と聞いても、比較する相手がありません。導入前の数字がなければ、何も証明できません。
しかも、人の記憶は当てになりません。「前は1時間くらいかかっていた気がする」という証言は、根拠として使えません。
最低限、測っておくべき5項目
すべてを測る必要はありません。次の5つで足ります。
| 項目 | 測り方 | 手間 |
|---|---|---|
| 対象作業の時間 | 1週間、担当者にメモしてもらう | 小 |
| 月間の処理件数 | 既存の台帳やファイルから数える | 小 |
| ミス・差し戻しの件数 | 1か月、発生のたびに記録する | 中 |
| 問い合わせ件数 | 1週間、電話やメールの件数を数える | 小 |
| その業務ができる人数 | 数えるだけ | なし |
厳密でなくて構いません。桁が合っていれば、比較の材料としては十分です。
要件定義の段階で、この計測を並行して進めてください。開発が始まってからでは、比較対象が失われます。
業種別|設定するKGIとKPIの例
| 業種 | KGI | KPI |
|---|---|---|
| 製造業 | 欠品による納期遅延をなくす | 在庫の実数と帳簿の差異件数/欠品発生回数 |
| 地方ホテル | 客室稼働率を5%上げる | 予約の反映までの時間/ダブルブッキング件数 |
| 建設会社 | 監督1人あたりの担当現場数を増やす | 事務作業に使う時間/写真整理にかかる時間 |
| 小売業 | 過剰在庫による資金の固定化を減らす | 在庫回転日数/発注の修正回数 |
| 士業事務所 | 単価の高い業務に使う時間を増やす | 進捗確認への対応件数/資料を探す時間 |
| バックオフィス | 間接業務の人件費を抑える | 月末処理の時間/残業時間/請求誤り件数 |
KPIは、1つのKGIに対して2〜3個が適量です。
多すぎると管理が形骸化します。毎月見る数字が10個もあると、誰も見なくなります。
いつ測るか|3つのタイミング
| 時期 | 見るもの | 判断すること |
|---|---|---|
| 稼働1〜3か月 | 使われているか、困っていないか | 定着の問題があれば対処する |
| 稼働6か月 | KPIが動いたか | 効果が出ていなければ原因を探る |
| 稼働1年 | KGIへの影響、投資の回収状況 | 次の投資に進むか、改善を続けるか |
注意したいのは、稼働直後に効果を測らないことです。
操作に慣れていない時期は、むしろ作業時間が増えます。ここで「効果がない」と判断すると、正しく評価できません。
最初の1〜3か月は、効果ではなく定着の状況を見る期間だと考えてください。
効果が出ていないとき、何を疑うか
半年経ってもKPIが動かない場合、原因は次のどれかです。
| 原因 | 確かめ方 | 対処 |
|---|---|---|
| そもそも使われていない | 利用状況を確認する | 定着の取り組みに戻る |
| 旧方式と併用している | Excelがまだ使われていないか見る | 旧方式を止める日を決める |
| 別の作業が増えた | 現場に何が増えたか聞く | 入力項目や手順を見直す |
| ボトルネックが別にあった | 業務全体の時間を測り直す | 本当の課題を特定し直す |
| KPIの選び方が悪い | KGIとのつながりを再確認する | 指標を選び直す |
4番目の「ボトルネックが別にあった」は、よくあります。
入力作業を半分に減らしたのに、全体の処理日数が変わらない。調べてみると、実は承認待ちの時間が大半を占めていた——このようなケースです。
これは失敗ではなく、次に手を付けるべき場所が分かったということです。測っていなければ、この発見もありませんでした。
数字に表れない効果も記録する
すべての効果が数字になるわけではありません。
- 担当者が休んでも業務が止まらなくなった
- 顧客から「対応が早くなった」と言われた
- 新人への引き継ぎが短期間で済むようになった
- 月末の張り詰めた雰囲気がなくなった
- 経営者が数字をすぐ確認できるようになった
こうした変化は、投資判断の材料としては弱いものの、社内で次の取り組みを進めるときの説得力になります。
数字と一緒に、現場の声も記録しておいてください。
効果測定でよくある失敗
導入前の数字を取っていない
最も多く、最も取り返しがつかない失敗です。
稼働してから気づいても、もう測れません。要件定義と並行して測ってください。
効果を大きく見せようとする
報告のために数字を良く見せると、次の判断を誤らせます。
効果が想定より小さかったなら、そう報告してください。なぜ小さかったかの分析のほうが、次に活きます。
測ることが目的になる
指標を増やしすぎると、測る作業自体が負担になります。
新しい報告書を作るために現場の時間が増えたら、本末転倒です。指標は3つまで、と決めてしまうくらいでちょうどよいでしょう。
測りっぱなしにする
数字を集めても、それを見て何かを決めなければ意味がありません。
月次で確認し、動いていなければ原因を探す。この一往復があって、はじめて測定が改善につながります。
明日からできる3つのこと
- KGIを1つ、文章で書く
「利益率を3%改善する」のように、会社として達成したいことを書きます。 - それにつながるKPIを2〜3個選ぶ
「良くなればKGIも良くなる」と言えるかを基準にします。 - 今週、対象作業の時間を測り始める
導入前の数字は、今しか取れません。
よくある質問
投資の回収期間は、どのくらいが妥当ですか?
中小企業の業務システムであれば、2〜3年が一つの目安です。
初年度は初期費用がかかるため、効果が費用を下回ることがよくあります。2年目以降で判断してください。
具体的な計算方法は、システム開発の費用対効果|ROI計算と中小企業の成功事例で解説しています。
作業時間が減っても、人は減らせません
その通りで、中小企業では人員削減という形にはなりにくいものです。
効果は、「増員せずに受注増に対応できた」「残業代が減った」「採用しなくても回った」という形で表れます。
これらも立派な、金額に換算できる効果です。
誰が測定を担当すべきですか?
推進担当者が集め、経営者が確認する形が現実的です。
ただし、経営者が定期的に見ていることが現場に伝わることが重要です。誰も見ない数字は、やがて集められなくなります。
まとめ|測っていないものは、改善できない
- KGIは達成したい成果、KPIはそこへ向かう途中で動かせる数字
- KPIは「良くなればKGIも良くなるか」で選ぶ
- 導入前の数字がなければ、効果は証明できない
- 稼働直後は効果ではなく、定着の状況を見る
- 効果が出ていない原因の分析が、次の改善につながる
効果を測ったら、その結果をどう次に活かすか。
システム導入はゴールではなく、ここからが本当の始まりです。次回は、稼働後の改善サイクルを扱います。
経営課題の整理から、業務の見直し、システムの選定・導入・定着、効果測定、継続的な改善まで。中小企業がDXを進める一連の流れを14回に分けて解説しています。
みんなシステムズでは、効果測定の設計からご相談を承っています。「何を指標にすべきか分からない」という段階でも構いませんので、お気軽にお問い合わせください。