着手する課題が決まった。いよいよシステムの検討に入ろう。
——その前に、一つだけ確認しておきたいことがあります。
その業務、そもそも本当に必要でしょうか。
意地悪な問いに聞こえるかもしれません。しかし、これは実務上とても重要な確認です。
なぜなら、非効率な業務をそのままシステム化すると、その非効率が固定されてしまうからです。
この記事では、システム化を検討する前に業務そのものを見直す方法を解説します。課題の優先順位づけについては、DX施策の優先順位の決め方|6つの評価軸とスコアリングの手順をご覧ください。
今の業務をそのままシステム化すると何が起きるか
「今のExcelと同じことができるシステムにしてください」
開発会社への依頼として、これは非常によくある形です。要望としては明確で、伝わりやすい。
ただ、この依頼の仕方には3つの問題があります。
| 問題 | 何が起きるか |
|---|---|
| ムダな工程も一緒に作られる | 不要な承認や確認作業が、システムの機能として実装される |
| 費用が高くなる | 作る機能が増えるほど、開発費も保守費も上がる |
| 変えにくくなる | 紙やExcelなら明日から変えられたやり方が、改修しないと変えられなくなる |
3つ目が特に重要です。
Excelの運用ルールなら、朝礼で「明日からこうします」と決めれば変わります。しかしシステムに組み込まれたルールは、変更に見積もりと期間と費用がかかります。
システム化とは、業務のやり方を固定する行為でもあると考えてください。だからこそ、固定する前に見直す価値があります。
システム化の前に問う5つの質問
業務を見直すときは、次の順番で問いを立てます。順番に意味があります。
| 順番 | 問い | 効果 | かかる費用 |
|---|---|---|---|
| 1 | やめられないか | 最大 | ゼロ |
| 2 | まとめられないか | 大 | ほぼゼロ |
| 3 | 順番を変えられないか | 中 | ほぼゼロ |
| 4 | 単純にできないか | 中 | 小 |
| 5 | 標準化できないか | 中 | 小 |
| 最後 | 自動化できないか | 大 | 大 |
表を見て分かるとおり、自動化は最後です。効果は大きいのですが、費用も大きい。
上の4つで解決できるなら、そのほうが速くて安く、しかも後から変えられます。
質問1|やめられないか
最も効果が大きく、費用がゼロの選択肢です。
「やめられるわけがない」と思う業務でも、次の問いを当ててみてください。
- この資料を、実際に読んでいる人は誰か
- この承認で、差し戻された実績は過去に何件あるか
- この確認作業で、誤りが見つかる頻度はどれくらいか
- この項目は、入力後どこかで使われているか
- いつ、誰が決めたルールか。その理由は今も有効か
2つ目の「差し戻し実績」は特に効きます。
何年も差し戻しゼロの承認があるなら、それは審査ではなく通過儀礼になっている可能性があります。金額の大きい案件だけに絞る、といった見直しが可能です。
「前任者から引き継いだから」という理由だけで続いている作業は、どの会社にも必ずあります。
質問2|まとめられないか
似た作業が別々に行われていないかを探します。
- 3人がそれぞれ別の顧客リストを管理している
- 週次報告と月次報告で、ほぼ同じ数字を作っている
- 部署ごとに同じ内容の会議を開いている
- 1件ずつ処理しているが、まとめて処理できる
最後の「まとめて処理」は、件数が多い業務で効果的です。
注文が入るたびに発注をかけているなら、1日1回まとめる。それだけで作業回数が10分の1になることもあります。
質問3|順番を変えられないか
工程の順序を入れ替えるだけで、手戻りが激減することがあります。
典型的なのが「確認を後ろから前へ動かす」パターンです。
| 変更前 | 変更後 | 効果 |
|---|---|---|
| 見積作成 → 上長承認 → 在庫確認 | 在庫確認 → 見積作成 → 上長承認 | 在庫がない案件の見積作成がなくなる |
| 全部入力してから最後にチェック | 入力時点で必須項目をチェック | まとめて差し戻しが起きなくなる |
| 月末にまとめて集計 | 日次で少しずつ積み上げる | 月末の負荷が分散する |
後工程で見つかる問題は、前工程で防ぐほうが安い。これは業務改善の基本原則です。
質問4|単純にできないか
作業の中身を軽くできないかを考えます。
- 入力項目を減らす(使われていない欄を消す)
- 自由記述を選択式に変える
- 報告書のページ数を決めてしまう
- 承認の段階を3段から2段に減らす
「自由記述を選択式に」は、地味ですが効果が大きい変更です。
書く側の時間が減るだけでなく、後から集計できるようになります。将来システム化するときにも、そのまま活きます。
質問5|標準化できないか
人によってやり方が違う作業を、一つに揃えます。
実は、この工程を飛ばすとシステム開発が必ず難航します。
「担当者によって判断が違う」状態のままでは、システムに何を実装すればいいのか決まらないためです。開発の途中で「そこはケースバイケースです」と言われると、そこから設計が止まります。
標準化するときは、次の順で進めます。
- 各担当者のやり方を並べて書き出す
- 違いが出ている箇所を特定する
- なぜ違うのかを聞く(たいてい理由がある)
- どれかに揃えるか、条件で分ける基準を決める
- 文書にして共有する
3番目を飛ばさないでください。違いには理由があることが多く、無視して揃えると現場が困ります。
なぜ「やめる」から考えるのか
順番を逆にして、自動化から考えるとどうなるか。
「この転記作業を自動化したい」から入ると、転記作業があること自体は疑われません。
結果として、そもそも不要だった作業を、費用をかけて自動化することになります。速く走れるようになっても、向かう先が間違っていれば意味がありません。
| アプローチ | 結果 | 年間コスト |
|---|---|---|
| そのまま自動化する | 作業時間が月20時間 → 5時間 | 開発費200万円+保守費 |
| まず業務を見直す | 作業自体が不要になり、月20時間 → 0時間 | ゼロ |
もちろん、すべてがこう単純にはいきません。
ただ、検討の順番を変えるだけで、投資額が一桁変わることは実際にあります。
業種別|業務見直しの具体例
| 業種 | 見直し前 | 見直しの内容 | 結果 |
|---|---|---|---|
| 製造業 | 日報を紙で提出し、事務がExcelへ入力 | 日報の項目を精査したところ、半分は誰も見ていなかった | 項目を減らし、入力作業自体が半分に |
| 建設会社 | すべての発注に社長承認が必要 | 過去1年の差し戻しは金額の大きい案件のみと判明 | 50万円未満は現場判断とし、承認待ちが消滅 |
| 小売業 | 店舗ごとに在庫の数え方が違う | 数え方と単位を統一してから記録方法を検討 | 本部での集計作業がなくなった |
| 介護事業者 | 記録を紙に書き、後でパソコンへ転記 | 転記をやめ、記録の様式をシステム側に合わせた | 二重記録が解消 |
| 士業事務所 | 進捗の問い合わせに個別対応 | 問い合わせが多い項目を定期連絡に切り替え | 個別対応の件数が減少 |
共通しているのは、どれもシステムを入れる前にできることだという点です。
【事例】ルールを決め直してからシステム化した例
配車から請求・入金までをクラウド化した運送会社の案件で、開発中に最も手間をかけたのは、実はプログラムを書く作業ではありませんでした。
曖昧なまま運用されていた会計ルールを、一つに整理し直す作業です。
この会社では、相殺や繰越の扱いが社内と社外の担当者それぞれのやり方で運用されていました。担当者が変わればやり方も微妙に変わり、誰が見ても同じように運用できる状態とは言えませんでした。
そこで、担当者へのヒアリングを重ねながら、次のような点を一つひとつ言語化していきました。
- どういう場合に相殺として扱うのか
- 繰越額はどう計算するのか
この整理があったからこそ、社内・社外どちらの担当者にとっても迷いのない仕組みになりました。
逆にいえば、ルールが曖昧なままシステム化を進めていたら、担当者ごとに違う運用がそのまま持ち込まれていたことになります。
詳しくはホワイトボードとエクセル管理から卒業。運送会社が配車〜請求書発行をまるごとクラウド化した事例をご覧ください。
業務見直しでよくある失敗
現場の反発を恐れて何も変えない
「長年このやり方でやってきた」と言われると、踏み込みにくくなります。
ただ、反発の多くは「変えること」ではなく「勝手に決められること」に向いています。理由を説明し、意見を聞く場を作れば、通ることは少なくありません。
逆に、現場の事情を無視して切り捨てる
一見ムダに見える作業が、実は重要な役割を果たしていることがあります。
二重チェックが一見過剰でも、過去に大きなミスがあってできたルールかもしれません。やめる前に「なぜこれがあるのか」を必ず聞いてください。
見直しに時間をかけすぎる
完璧な業務設計を目指すと、いつまでも次に進めません。
目安は、大きなムダを3つ取り除けたら次へ進むくらいで十分です。残りは運用しながら直せます。
見直した結果を文書に残さない
口頭で決めただけだと、数か月後に元のやり方へ戻ります。
A4用紙1枚で構いません。「変更前・変更後・理由」を書いて共有してください。この文書は、後の要件定義でもそのまま使えます。
明日からできる3つのこと
- 定例の会議・報告書を1つ選び、読者を確認する
「実際に読んでいる人」を数えてみてください。ゼロなら廃止の候補です。 - 承認プロセスの差し戻し実績を調べる
過去1年で一度も差し戻していない承認は、簡略化できる可能性があります。 - 同じ作業を複数人でやり方を比べる
違いが出たら、そこが標準化すべき箇所です。
よくある質問
業務見直しだけで、システムは不要になりますか?
課題によっては、そうなります。
ただし、件数が多い、複数拠点にまたがる、履歴を残す必要がある、といった条件が重なる業務は、どこかで人手の限界が来ます。その場合はシステム化が有効です。
大事なのは、見直したうえで、それでも必要な部分だけをシステム化することです。
見直しは誰が主導すべきですか?
「やめる」判断には権限が要るため、経営者か部門責任者が関わる必要があります。
現場担当者だけでは、他部署に影響する変更や、長年の慣習をやめる判断はできません。
どこまで見直せば、システム化に進んでいいですか?
次の3つが言えるようになったら、進んで大丈夫です。
- この業務は何のためにあるか、一文で説明できる
- 担当者が変わっても同じ手順で進められる
- 例外的なケースの扱いが決まっている
まとめ|固定する前に、整える
システム化は、業務を速くする手段であると同時に、業務の形を固定する行為です。
- 非効率なままシステム化すると、その非効率が固定される
- やめる → まとめる → 順番を変える → 単純にする → 標準化する、の順で考える
- 自動化は最後。効果は大きいが、費用も大きい
- やめる前に「なぜこれがあるのか」を必ず聞く
- 標準化を飛ばすと、システム開発は必ず難航する
業務が整ったら、いよいよ実現手段の検討に入ります。
ただし中小企業の場合、最初から大規模に作るのは得策ではありません。次回は小さく始めて広げる進め方を扱います。
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