システムが稼働し、現場にも定着し、効果も数字で確認できた。
これでプロジェクトは完了——と考えたくなりますが、実はここからが本番です。
業務は変わり続けます。取引先が増え、商品が増え、法制度が変わり、人も入れ替わる。作った時点で最適だった仕組みは、放っておくと少しずつ現実からずれていきます。
この記事では、稼働後に改善を続けるための具体的な進め方を解説します。効果測定については、DXの効果測定|KGI・KPIの決め方と導入前に測るべき5項目をご覧ください。
なぜ、導入後に改善が必要なのか
理由は3つあります。
使ってみて初めて分かることがある
どれだけ丁寧に要件を整理しても、実際に運用すると想定外のことが起こります。
「この項目、結局使っていない」「この順番だと入力しづらい」「月末だけ別の使い方をしている」。これらは机上では出てきません。
業務そのものが変わっていく
新しい取引先との取引条件、扱う商品の増加、法改正への対応。
会社が成長すれば業務は必ず変わります。変わらない業務があるとすれば、それは事業が止まっているということでもあります。
改善の余地は、使い込むほど見えてくる
最初は「登録できるようになった」だけで十分でした。
しかし慣れてくると、「この集計も自動化できるのでは」「この情報を営業でも見たい」という要望が出てきます。これは前進のサインです。
改善サイクルの回し方
難しい手法は必要ありません。次の6ステップを繰り返します。
| 段階 | やること | 頻度 | 担当 |
|---|---|---|---|
| 1. 使う | 日常的に運用する | 毎日 | 現場 |
| 2. 集める | 困りごと・要望を書き留める | 随時 | 現場・推進担当 |
| 3. 測る | KPIを確認する | 月次 | 推進担当 |
| 4. 見つける | 数字が動かない原因を探す | 月次 | 推進担当・責任者 |
| 5. 直す | 優先順位をつけて対応する | 四半期 | 責任者・開発会社 |
| 6. 確かめる | 直したことで改善したかを見る | 四半期 | 推進担当 |
ポイントは、2番目の「集める」を常時オープンにしておくことです。
困りごとは、起きたその瞬間に言える場所がないと消えてしまいます。四半期に一度アンケートを取っても、そのころには忘れられています。
要望の集め方
大がかりな仕組みは不要です。次のどれかで十分機能します。
- 共有フォルダに「要望メモ」のファイルを1つ置く
- チャットに専用のグループを作る
- 推進担当が月1回、各部署を回って聞く
大事なのは「言っても無駄だ」と思われないことです。
対応しない要望についても、「今回は見送ります」と理由を返してください。無視されるのが、最も意欲を削ぎます。
出てきた要望を、どう仕分けるか
集まった要望を、すべて実装するわけにはいきません。次の基準で仕分けます。
| 分類 | 判断基準 | 対応 |
|---|---|---|
| 不具合 | 本来の動きになっていない | すぐ直す |
| 業務が止まる | 回避策がなく、実務に支障がある | 優先して対応する |
| 効果が大きい | 時間削減やミス防止につながる | 次回のまとめて改修に含める |
| 特定の人だけ | 1人からの要望で、他は困っていない | 運用の工夫で対応できないか検討する |
| 好みの問題 | 色や配置など、業務への影響がない | 見送る、または他とまとめて対応する |
改修は、1件ずつではなく、まとめて実施するほうが効率的です。
都度依頼すると、そのたびに見積もりとテストが発生します。四半期ごとにまとめれば、費用も手間も抑えられます。
【事例】稼働後も手を入れ続けているシステム
補助金の申請支援を手がける企業向けに開発した、案件管理システムの例です。
この業務には、次のような特徴がありました。
- クライアントごとに申請中の補助金が異なる
- 自治体ごとに制度の内容も締切も違う
- 紹介パートナー経由の案件が増え、誰からの紹介かを追う必要がある
- 採択後の実績報告は提出期限が厳格で、漏れると致命的
2021年に開発へ着手し、稼働後も継続的に機能追加を重ねています。
追加してきたのは、市区町村マスタの整備、補助金情報の項目拡充、アクセスログの追加、二重送信の防止といった実際の運用で見えてきた課題への対応です。
どれも、最初の要件定義では出てこなかった項目です。
制度変更や自治体ごとの違いが多い業務だからこそ、一度作って終わりにせず、運用しながら手を入れられる体制が効きます。
この事例の詳細は、以下のページでご覧いただけます。

改善を続けるための体制
継続的な改善には、そのための仕組みが要ります。
| 必要なもの | 目安 | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 改善のための予算 | 初期費用の1〜2割を年間で | 誰の承認で使えるか |
| 要望を集める場 | 常時オープン | どこに書くか、誰が見るか |
| 見直しの会議 | 四半期に1回・30分 | 誰が参加するか |
| 開発会社との関係 | 保守契約または都度依頼 | 費用の決まり方、対応の期間 |
| 社内の記録 | 常に最新に保つ | 設定内容、業務フロー、運用手順 |
いちばん下の「社内の記録」は、特に軽視されがちです。
開発会社に任せきりにすると、担当者の変更や契約終了のときに困ります。設定内容や運用手順は、自社でも把握しておいてください。
改善予算を確保しておく
「必要になったら考える」では、たいてい後回しになります。
年度予算に改修枠として組み込んでおくと、都度の稟議が不要になり、改善のスピードが上がります。
目安は初期投資額の1〜2割を年間で見ておくことです。200万円で作ったなら、年間20〜40万円程度になります。
次のテーマの見つけ方
1つの業務が改善したら、次はどこへ進むか。
判断の材料は、すでに手元にあります。
- 優先順位づけで「今回は対象外」にした課題を見直す
- 今回の改善で新たに見えたボトルネックに取り組む
- 前後の業務へつなげる(受注が終わったら、次は在庫や請求へ)
- 蓄積されたデータを活かす(記録が溜まったので、分析ができるようになる)
2番目は、1本目をやったからこそ見えるものです。
入力時間を減らしたら、今度は承認待ちが目立つようになった。これは前進した証拠であり、次のテーマそのものです。
改善には、大きさの違う2つの輪がある
ここまで見てきた改善は、実は性質の違う2種類が混ざっています。整理しておきましょう。
| 項目 | 内側の輪 | 外側の輪 |
|---|---|---|
| 問い | 今の仕組みを、どう良くするか | 次は、何に取り組むべきか |
| 回す頻度 | 月に1回 | 年に1回 |
| 集まる人 | 現場の担当者と推進担当 | 経営者と各部門の責任者 |
| 材料 | 現場の要望、エラー、使いにくさ | 効果測定の結果、経営環境の変化 |
| 決めること | 改修する項目と、その順番 | 次のテーマと、そこに充てる予算 |
この2つは、どちらも必要です。ただし、放っておくと内側の輪だけが回り続けます。要望は現場から自然に上がってくるのに対し、外側の輪は誰かが日を決めない限り始まらないからです。
内側の輪だけを3年回した会社は、同じ業務をきれいに磨き上げた状態になります。作業は速くなり、ミスも減っている。それでも、商売の形は3年前と同じです。
外側の輪は、日を決めて回す
やり方は難しくありません。年に1度、次の3つを話す場を作るだけです。
- この1年で何が変わったか:測った数字を、良い結果も悪い結果もそのまま並べる
- 取り組んだ課題は正しかったか:数字が動いても経営が変わっていないなら、課題の選び方を見直す
- 次の1年で何に取り組むか:守りの改善から1つ、お客様に向けた取り組みから1つ
決算や期首の予定に、この場をあらかじめ入れてしまうのが確実です。「落ち着いたらやろう」で始まった会社を、見たことがありません。
残すのは手順書ではなく、判断の理由
もう一つ、輪を回し続けるために必要なことがあります。会社に経験を残すことです。
担当者が代わると分からなくなるのは、操作手順ではありません。手順書は残っていることが多いからです。失われるのは、なぜそう決めたのかという理由のほうです。
1つの判断につき、1ページで構いません。次の4つを書き残してください。
| 項目 | 書くこと |
|---|---|
| 決めたこと | 何を、どうすると決めたか |
| その理由 | なぜそれを選んだか |
| 採らなかった案 | 他に何を検討し、なぜ外したか |
| 前提 | どういう条件のもとでの判断か |
4つ目が重要です。「取引先が紙の注文書しか送ってこないから」「当時は月100件だったから」といった前提を書いておくと、前提が変わったときに、その判断を見直すきっかけになります。
これがない会社では、数年前の判断が理由もわからないまま守られ続けます。「昔からこうなっているので」という説明の多くは、記録が残っていないことの言い換えです。
2本目、3本目のシステムに取り組むとき、この記録の有無が進み方を大きく分けます。1本目で得た経験を会社に残せた会社は、2本目が明らかに速くなります。
継続的改善でよくある失敗
稼働後に推進担当を解散させる
プロジェクトが終わると、担当者は通常業務に戻ります。
すると、要望を集める人も、改善を提案する人もいなくなります。役割を縮小してでも、窓口は残してください。
改修予算がなく、要望が溜まり続ける
要望は集めているが、直す予算がない。これが続くと、現場は要望を出さなくなります。
そして数年後、「使いにくいシステム」という評価だけが残ります。
運用ルールを見直さない
改善はシステムの改修だけではありません。
入力ルールを変える、承認の段階を減らす、締め日をずらす。費用ゼロでできる改善も、定期的に検討してください。
担当者が代わって、経緯が分からなくなる
「なぜこの設定になっているのか」が分からなくなると、迂闊に変えられなくなります。
結果、改善が止まります。決定の理由を記録に残しておくことが、数年後の自由度を守ります。
明日からできる3つのこと
- 要望を書き留める場所を1つ作る
共有ファイルでもチャットでも構いません。場所を決めることが大事です。 - 四半期に1回30分の見直し会議を予定に入れる
先に予定を入れてしまうのが確実です。 - 来年度の予算に改修枠を入れる
初期投資額の1〜2割を目安にします。
よくある質問
保守契約は結ぶべきですか?
業務が止まると困るシステムであれば、結んでおくべきです。
確認すべきは、何が含まれるかです。障害対応だけなのか、軽微な改修も含むのか、対応時間は何時までか。
「保守」という言葉の範囲は会社によって違うため、具体的に確認してください。
改善の要望が出てこなくなりました
2つの可能性があります。
1つは、本当に満足している場合。もう1つは、言っても変わらないと諦められている場合です。
過去に出た要望のうち、何件対応したかを振り返ってみてください。対応率が低ければ、後者の可能性が高いといえます。
いつまで改善を続けるべきですか?
使い続ける限り、というのが答えになります。
ただし、頻度は下がっていきます。稼働1年目は四半期ごと、3年目以降は年1回の見直しでも十分な場合が多いでしょう。
大きく作り替えるタイミングが来たら、それはまた新しいプロジェクトとして、経営課題の整理から始めることになります。
まとめ|導入はゴールではなく、出発点
- 使ってみて初めて分かることがあり、業務自体も変わり続ける
- 要望を集める場を常時開いておく。無視しないことが最も重要
- 改修は都度ではなく、四半期ごとにまとめると効率的
- 改善予算は初期投資の1〜2割を年間で確保しておく
- 決定の理由を記録に残すことが、将来の自由度を守る
ここまで13回にわたって、経営課題の整理から継続的な改善までを解説してきました。
次回は最終回として、全体の流れをひとつの地図にまとめます。自社が今どの段階にいるのかを確認する目安としてお使いください。
経営課題の整理から、業務の見直し、システムの選定・導入・定着、効果測定、継続的な改善まで。中小企業がDXを進める一連の流れを14回に分けて解説しています。
- システム導入前に経営課題を整理する方法
- 業務の見える化の進め方|現状分析(As-Is)
- To-Be(理想の業務)の描き方
- DX施策の優先順位の決め方
- その業務、本当に必要ですか?
- 中小企業のDXは小さく始める
- 業務課題の解決手段は7つある
- 要件定義は3層で考える
- 経営者・現場・システム会社の認識がズレる理由
- システム開発の丸投げが失敗する理由
- 良いシステムが現場で使われない理由
- DXの効果測定|KGI・KPIの決め方
- システム導入はゴールではない
- 中小企業のDX推進ロードマップ(総まとめ)
本シリーズは、特定非営利活動法人ITコーディネータ協会が公開する『ITコーディネータプロセスガイドライン Ver.4.0(デジタル経営推進プロセスガイドライン)』の考え方を参考に構成しています。
みんなシステムズでは、稼働後の改善・機能追加まで長期的にお付き合いしています。「導入したシステムが今の業務に合わなくなってきた」というご相談も承りますので、お気軽にお問い合わせください。