現状の業務を洗い出した。ムダも見つかった。
——では、次は何をすればいいのでしょうか。
ここで多くの会社が、いきなりシステムの比較検討に進んでしまいます。資料請求をして、デモを見て、見積もりを取る。
しかし、その前にもう一つ決めておかなければならないことがあります。「どういう状態になれば成功なのか」という到達点です。
これをTo-Be(トゥービー)、日本語では「あるべき姿」や「理想の業務」と呼びます。
この記事では、To-Beの描き方と、現状(As-Is)との差から課題を導く方法を解説します。現状分析のやり方については、業務の見える化の進め方|現状分析(As-Is)で見るべき5つの手順をご覧ください。
To-Beを決めずにシステムを選ぶと何が起きるか
到達点が決まっていない状態でシステムを選ぶと、判断の基準が「機能の多さ」か「価格の安さ」しかなくなります。
その結果、次のようなことが起こります。
| 起きること | なぜ起きるか |
|---|---|
| 機能が多いものを選んでしまう | 何が必要か決まっていないので、多いほうが安心に見える |
| デモの印象で決めてしまう | 比較軸がないため、画面のきれいさで判断してしまう |
| 営業担当の提案に流される | 「御社の場合はこれが必要です」に反論する材料がない |
| 導入後に成功したか分からない | 成功の定義がないので、評価のしようがない |
| 途中で要望が増え続ける | どこまでやれば終わりなのかが決まっていない |
特に最後の「要望が増え続ける」は深刻です。
ゴールが決まっていないプロジェクトは、終わる条件がないので、予算と期間が尽きるまで続きます。
To-Beとは「未来の業務の姿」であって、システムの仕様ではない
ここが最も誤解されやすい点です。
To-Beを書いてくださいとお願いすると、多くの場合「こういう画面が欲しい」「こんな機能が必要」という答えが返ってきます。
それは手段であって、到達点ではありません。
| これはTo-Beではない | To-Beとして書き直すと |
|---|---|
| 受注管理システムを導入する | 受注内容を1回入力すれば、請求書まで自動で作られる |
| スマホから在庫が見られるようにする | 倉庫に行かなくても、その場で在庫を答えられる |
| ダッシュボードを作る | 月次の数字を、翌営業日には経営会議で見られる |
| ワークフロー機能をつける | 承認待ちが1日以内に収まる |
右側の書き方には、システムという言葉が出てきません。
これが重要です。到達点を手段から切り離しておくと、後で「もっと安い実現方法」が見つかったときに乗り換えられるからです。
To-Beを描く4つのステップ
ステップ1|業務の目的に立ち返る
まず、その業務が「何のためにあるのか」を確認します。
受注処理の目的は、受注管理表を埋めることではありません。顧客が注文したものを、正しく、約束した期日までに届けることです。
目的に立ち返ると、「そもそもこの工程は目的に貢献しているのか」という問いが立てられるようになります。
ステップ2|理想の状態を「動作」で書く
次に、うまくいっている状態を文章にします。
コツは、誰が何をしている状態かを、動作として書くことです。
- △ 受注業務が効率化されている
- ○ 営業担当が外出先から受注を登録すると、倉庫の担当者が即座にその内容を見られる
下のように書けていれば、関係者が同じ絵を思い浮かべられます。
「効率化」「見える化」「最適化」といった言葉が出てきたら、それは具体的に書けていないサインだと思ってください。
ステップ3|数字を入れる
動作で書けたら、そこに数字を入れます。
| 項目 | 現状(As-Is) | 理想(To-Be) |
|---|---|---|
| 受注1件の処理時間 | 30分 | 10分以内 |
| 請求書発行にかかる時間 | 月20時間 | 月5時間以内 |
| 在庫の問い合わせ対応 | 週10件・1件5分 | 週2件以内 |
| 受注から出荷までの日数 | 平均5日 | 3日以内 |
| 請求の誤り | 月1〜2件 | 原則ゼロ |
| 担当できる人数 | 1名のみ | 3名が対応可能 |
数字を入れる目的は2つあります。
一つは、どこまでやるかを決めるためです。「10分以内」と決めれば、9分にする工夫は不要になります。
もう一つは、導入後に成否を判定するためです。この数字が、そのまま効果測定の指標になります。
ステップ4|いつまでに、どこまでを決める
最後に、期限と範囲を区切ります。
理想をすべて一度に実現しようとすると、たいてい破綻します。「1年後にここまで」「3年後にここまで」と段階に分けてください。
| 時期 | 到達点 | 対象範囲 |
|---|---|---|
| 6か月後 | 受注情報の二重入力がなくなる | 営業部・経理部 |
| 1年後 | 在庫状況が全員リアルタイムで見られる | +倉庫 |
| 2〜3年後 | 受注から入金まで一つの流れでつながる | +外部の会計担当 |
段階に分けておくと、最初の投資額を抑えられます。小さく始める考え方については、後の回で詳しく扱います。
As-IsとTo-Beの差が「課題」になる
ここまで来ると、課題は自動的に出てきます。
現状と理想の差、それがそのまま課題です。
この差を埋める作業を、ギャップ分析と呼びます。難しく考える必要はありません。表にすれば見えます。
| 現状(As-Is) | 理想(To-Be) | ギャップ=課題 | 考えられる打ち手 |
|---|---|---|---|
| 受注内容を2か所に入力している | 1回の入力で請求書まで作られる | 入力が二重になっている | データを1か所に集約する |
| 在庫は倉庫の台帳にしかない | その場で在庫を答えられる | 在庫情報が共有されていない | 在庫の記録場所を共有化する |
| 承認待ちが平均1日 | 承認待ちが1日以内 | ほぼ達成できている | 今回は対象外にする |
| 値引き判断はベテランのみ | 3名が対応可能 | 判断基準が言語化されていない | ルールを文書化する |
この表の価値は、3行目のような「実はギャップが小さい項目」が見えることにもあります。
やらなくていいことを見つけるのも、ギャップ分析の役割です。
打ち手の欄に「システム」と書かない
上の表の右端を見てください。「システムを導入する」とは書いていません。
4行目の「ルールを文書化する」は、システムがなくてもできることです。実際、ギャップの何割かは運用の見直しだけで埋まります。
この段階で手段を絞り込まないでください。手段の選び方は、課題が出そろってからで十分間に合います。
現実的なTo-Beと、非現実的なTo-Be
理想を描くとき、どこまで高く設定するかは悩ましいところです。判断の目安を挙げます。
| 観点 | 現実的なTo-Be | 危険なTo-Be |
|---|---|---|
| 人員 | 今の人数でできる | 専任担当がいる前提になっている |
| スキル | 現場が今の知識で使える | 全員がITに慣れる前提 |
| 投資額 | 削減効果の範囲に収まる | 効果より投資が大きい |
| 期間 | 1年以内に最初の成果が出る | 3年後に全部完成させる |
| 取引先 | 相手のやり方を変えなくてよい | 取引先全社の協力が前提 |
特に注意したいのが、いちばん下の取引先です。
「取引先にも専用画面から発注してもらう」という理想は、自社だけでは実現できません。相手に手間が増えるなら、まず使ってもらえないと考えたほうが安全です。
自社の努力だけで到達できる範囲に理想を置く。これが、実現するTo-Beの条件です。
To-Beを描くときによくある失敗
現場に「理想を書いてください」と丸投げする
現場に聞くと、たいてい「今の作業が少し楽になる案」が出てきます。
それは悪いことではありませんが、今の仕事の枠組みは疑われません。「この業務自体をなくす」という発想は、担当している人からは出にくいものです。
現場からは事実と困りごとを集め、理想は経営の視点で描く。この役割分担が現実的です。
他社の事例をそのまま理想にしてしまう
同業他社の成功事例は参考になりますが、そのまま持ち込むと合いません。
取引先の構成、社員数、扱う商品、地域性が違えば、最適な業務の形も変わります。
参考にすべきは結果ではなく、どうやってその結論に至ったかの考え方のほうです。
理想が壮大になりすぎる
「全社のデータが統合され、経営判断がリアルタイムで行える状態」。
間違ってはいませんが、この粒度では次に何をすればいいのか誰にも分かりません。
大きな理想を掲げるのは構いませんが、必ず「最初の6か月で到達する状態」まで分解してください。
現状の不満の裏返しで終わる
「Excelが重い」→「重くないシステムにする」。これでは、業務の形は何も変わりません。
不満の解消は出発点にすぎません。そこから一段進んで、「そもそもこの作業が要らない状態」は作れないかを考えてみてください。
明日からできる3つのこと
- 対象業務の「目的」を一文で書く
受注処理なら「注文を正しく期日までに届けること」。ここが出発点です。 - 理想の状態を、動作で3つ書く
「誰が」「何をしている」の形にします。効率化という言葉は禁止です。 - 現状・理想・ギャップの3列表を作る
行は5つで十分です。埋まらない行があれば、現状分析が足りていないサインです。
よくある質問
To-Beは誰が決めるべきですか?
最終的には経営者、または対象業務の責任者です。
投資の判断を伴うため、決裁権のある人が決める必要があります。ただし、現場の実態を無視した理想は実現しないため、素案づくりには現場を巻き込んでください。
数値目標はどうやって決めればいいですか?
現状の半分、を最初の目安にしてみてください。
月20時間かかっているなら10時間。1割の改善なら運用の工夫で済むことが多く、システム投資に見合いません。逆に9割減は、業務そのものをなくす発想が必要になります。
To-Beを決めたのに、後から変わってしまいました
問題ありません。むしろ自然なことです。
検討を進めるうちに、より良い形が見えてくることはよくあります。大事なのは変えないことではなく、変えたときに関係者へ共有し、合意し直すことです。
暗黙のうちに目標が変わっていく状態が、最も危険です。
まとめ|ゴールを決めてから、手段を選ぶ
To-Beを描く作業は、システム導入のための準備ではありません。
自社の業務をどう変えたいのかを、会社として決める作業です。
- To-Beは「未来の業務の姿」であって、システムの仕様ではない
- 「効率化」ではなく、誰が何をしている状態かを動作で書く
- 数字を入れる。どこまでやるかと、成否の判定基準になる
- As-IsとTo-Beの差が、そのまま課題になる
- 自社の努力だけで到達できる範囲に理想を置く
ここまでで、課題が10個も20個も出てきたはずです。
次はそれをどの順番で解決するかを決める番です。中小企業のDXが失敗する原因の一つは、すべてを同時に解決しようとすることにあります。
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