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DX・業務改善 2026.08.11

To-Be(理想の業務)の描き方|As-Isとのギャップから課題を出す方法

IT・DX経営改善コラム 第03回|理想の業務(To-Be)の描き方

現状の業務を洗い出した。ムダも見つかった。

——では、次は何をすればいいのでしょうか。

ここで多くの会社が、いきなりシステムの比較検討に進んでしまいます。資料請求をして、デモを見て、見積もりを取る。

しかし、その前にもう一つ決めておかなければならないことがあります。「どういう状態になれば成功なのか」という到達点です。

これをTo-Be(トゥービー)、日本語では「あるべき姿」や「理想の業務」と呼びます。

この記事では、To-Beの描き方と、現状(As-Is)との差から課題を導く方法を解説します。現状分析のやり方については、業務の見える化の進め方|現状分析(As-Is)で見るべき5つの手順をご覧ください。

目次

To-Beを決めずにシステムを選ぶと何が起きるか

到達点が決まっていない状態でシステムを選ぶと、判断の基準が「機能の多さ」か「価格の安さ」しかなくなります。

その結果、次のようなことが起こります。

起きることなぜ起きるか
機能が多いものを選んでしまう何が必要か決まっていないので、多いほうが安心に見える
デモの印象で決めてしまう比較軸がないため、画面のきれいさで判断してしまう
営業担当の提案に流される「御社の場合はこれが必要です」に反論する材料がない
導入後に成功したか分からない成功の定義がないので、評価のしようがない
途中で要望が増え続けるどこまでやれば終わりなのかが決まっていない

特に最後の「要望が増え続ける」は深刻です。

ゴールが決まっていないプロジェクトは、終わる条件がないので、予算と期間が尽きるまで続きます。

To-Beとは「未来の業務の姿」であって、システムの仕様ではない

ここが最も誤解されやすい点です。

To-Beを書いてくださいとお願いすると、多くの場合「こういう画面が欲しい」「こんな機能が必要」という答えが返ってきます。

それは手段であって、到達点ではありません。

これはTo-BeではないTo-Beとして書き直すと
受注管理システムを導入する受注内容を1回入力すれば、請求書まで自動で作られる
スマホから在庫が見られるようにする倉庫に行かなくても、その場で在庫を答えられる
ダッシュボードを作る月次の数字を、翌営業日には経営会議で見られる
ワークフロー機能をつける承認待ちが1日以内に収まる

右側の書き方には、システムという言葉が出てきません。

これが重要です。到達点を手段から切り離しておくと、後で「もっと安い実現方法」が見つかったときに乗り換えられるからです。

To-Beを描く4つのステップ

ステップ1|業務の目的に立ち返る

まず、その業務が「何のためにあるのか」を確認します。

受注処理の目的は、受注管理表を埋めることではありません。顧客が注文したものを、正しく、約束した期日までに届けることです。

目的に立ち返ると、「そもそもこの工程は目的に貢献しているのか」という問いが立てられるようになります。

ステップ2|理想の状態を「動作」で書く

次に、うまくいっている状態を文章にします。

コツは、誰が何をしている状態かを、動作として書くことです。

  • △ 受注業務が効率化されている
  • ○ 営業担当が外出先から受注を登録すると、倉庫の担当者が即座にその内容を見られる

下のように書けていれば、関係者が同じ絵を思い浮かべられます。

「効率化」「見える化」「最適化」といった言葉が出てきたら、それは具体的に書けていないサインだと思ってください。

ステップ3|数字を入れる

動作で書けたら、そこに数字を入れます。

項目現状(As-Is)理想(To-Be)
受注1件の処理時間30分10分以内
請求書発行にかかる時間月20時間月5時間以内
在庫の問い合わせ対応週10件・1件5分週2件以内
受注から出荷までの日数平均5日3日以内
請求の誤り月1〜2件原則ゼロ
担当できる人数1名のみ3名が対応可能

数字を入れる目的は2つあります。

一つは、どこまでやるかを決めるためです。「10分以内」と決めれば、9分にする工夫は不要になります。

もう一つは、導入後に成否を判定するためです。この数字が、そのまま効果測定の指標になります。

ステップ4|いつまでに、どこまでを決める

最後に、期限と範囲を区切ります。

理想をすべて一度に実現しようとすると、たいてい破綻します。「1年後にここまで」「3年後にここまで」と段階に分けてください。

時期到達点対象範囲
6か月後受注情報の二重入力がなくなる営業部・経理部
1年後在庫状況が全員リアルタイムで見られる+倉庫
2〜3年後受注から入金まで一つの流れでつながる+外部の会計担当

段階に分けておくと、最初の投資額を抑えられます。小さく始める考え方については、後の回で詳しく扱います。

As-IsとTo-Beの差が「課題」になる

ここまで来ると、課題は自動的に出てきます。

現状と理想の差、それがそのまま課題です。

この差を埋める作業を、ギャップ分析と呼びます。難しく考える必要はありません。表にすれば見えます。

現状(As-Is)理想(To-Be)ギャップ=課題考えられる打ち手
受注内容を2か所に入力している1回の入力で請求書まで作られる入力が二重になっているデータを1か所に集約する
在庫は倉庫の台帳にしかないその場で在庫を答えられる在庫情報が共有されていない在庫の記録場所を共有化する
承認待ちが平均1日承認待ちが1日以内ほぼ達成できている今回は対象外にする
値引き判断はベテランのみ3名が対応可能判断基準が言語化されていないルールを文書化する

この表の価値は、3行目のような「実はギャップが小さい項目」が見えることにもあります。

やらなくていいことを見つけるのも、ギャップ分析の役割です。

打ち手の欄に「システム」と書かない

上の表の右端を見てください。「システムを導入する」とは書いていません。

4行目の「ルールを文書化する」は、システムがなくてもできることです。実際、ギャップの何割かは運用の見直しだけで埋まります。

この段階で手段を絞り込まないでください。手段の選び方は、課題が出そろってからで十分間に合います。

現実的なTo-Beと、非現実的なTo-Be

理想を描くとき、どこまで高く設定するかは悩ましいところです。判断の目安を挙げます。

観点現実的なTo-Be危険なTo-Be
人員今の人数でできる専任担当がいる前提になっている
スキル現場が今の知識で使える全員がITに慣れる前提
投資額削減効果の範囲に収まる効果より投資が大きい
期間1年以内に最初の成果が出る3年後に全部完成させる
取引先相手のやり方を変えなくてよい取引先全社の協力が前提

特に注意したいのが、いちばん下の取引先です。

「取引先にも専用画面から発注してもらう」という理想は、自社だけでは実現できません。相手に手間が増えるなら、まず使ってもらえないと考えたほうが安全です。

自社の努力だけで到達できる範囲に理想を置く。これが、実現するTo-Beの条件です。

To-Beを描くときによくある失敗

現場に「理想を書いてください」と丸投げする

現場に聞くと、たいてい「今の作業が少し楽になる案」が出てきます。

それは悪いことではありませんが、今の仕事の枠組みは疑われません。「この業務自体をなくす」という発想は、担当している人からは出にくいものです。

現場からは事実と困りごとを集め、理想は経営の視点で描く。この役割分担が現実的です。

他社の事例をそのまま理想にしてしまう

同業他社の成功事例は参考になりますが、そのまま持ち込むと合いません。

取引先の構成、社員数、扱う商品、地域性が違えば、最適な業務の形も変わります。

参考にすべきは結果ではなく、どうやってその結論に至ったかの考え方のほうです。

理想が壮大になりすぎる

「全社のデータが統合され、経営判断がリアルタイムで行える状態」。

間違ってはいませんが、この粒度では次に何をすればいいのか誰にも分かりません。

大きな理想を掲げるのは構いませんが、必ず「最初の6か月で到達する状態」まで分解してください。

現状の不満の裏返しで終わる

「Excelが重い」→「重くないシステムにする」。これでは、業務の形は何も変わりません。

不満の解消は出発点にすぎません。そこから一段進んで、「そもそもこの作業が要らない状態」は作れないかを考えてみてください。

明日からできる3つのこと

  1. 対象業務の「目的」を一文で書く
    受注処理なら「注文を正しく期日までに届けること」。ここが出発点です。
  2. 理想の状態を、動作で3つ書く
    「誰が」「何をしている」の形にします。効率化という言葉は禁止です。
  3. 現状・理想・ギャップの3列表を作る
    行は5つで十分です。埋まらない行があれば、現状分析が足りていないサインです。

よくある質問

To-Beは誰が決めるべきですか?

最終的には経営者、または対象業務の責任者です。

投資の判断を伴うため、決裁権のある人が決める必要があります。ただし、現場の実態を無視した理想は実現しないため、素案づくりには現場を巻き込んでください。

数値目標はどうやって決めればいいですか?

現状の半分、を最初の目安にしてみてください。

月20時間かかっているなら10時間。1割の改善なら運用の工夫で済むことが多く、システム投資に見合いません。逆に9割減は、業務そのものをなくす発想が必要になります。

To-Beを決めたのに、後から変わってしまいました

問題ありません。むしろ自然なことです。

検討を進めるうちに、より良い形が見えてくることはよくあります。大事なのは変えないことではなく、変えたときに関係者へ共有し、合意し直すことです。

暗黙のうちに目標が変わっていく状態が、最も危険です。

まとめ|ゴールを決めてから、手段を選ぶ

To-Beを描く作業は、システム導入のための準備ではありません。

自社の業務をどう変えたいのかを、会社として決める作業です。

  • To-Beは「未来の業務の姿」であって、システムの仕様ではない
  • 「効率化」ではなく、誰が何をしている状態かを動作で書く
  • 数字を入れる。どこまでやるかと、成否の判定基準になる
  • As-IsとTo-Beの差が、そのまま課題になる
  • 自社の努力だけで到達できる範囲に理想を置く

ここまでで、課題が10個も20個も出てきたはずです。

次はそれをどの順番で解決するかを決める番です。中小企業のDXが失敗する原因の一つは、すべてを同時に解決しようとすることにあります。

整理した内容を社内で共有する文書にまとめる方法は、【中小企業向け】システム化構想の立案テンプレート|立案書の作り方で解説しています。

【連載】IT・DX経営改善コラム 全14回

経営課題の整理から、業務の見直し、システムの選定・導入・定着、効果測定、継続的な改善まで。中小企業がDXを進める一連の流れを14回に分けて解説しています。

  1. システム導入前に経営課題を整理する方法
  2. 業務の見える化の進め方|現状分析(As-Is)
  3. To-Be(理想の業務)の描き方
  4. DX施策の優先順位の決め方
  5. その業務、本当に必要ですか?
  6. 中小企業のDXは小さく始める
  7. 業務課題の解決手段は7つある
  8. 要件定義は3層で考える
  9. 経営者・現場・システム会社の認識がズレる理由
  10. システム開発の丸投げが失敗する理由
  11. 良いシステムが現場で使われない理由
  12. DXの効果測定|KGI・KPIの決め方
  13. システム導入はゴールではない
  14. 中小企業のDX推進ロードマップ(総まとめ)

みんなシステムズでは、理想の業務像を描く段階からご相談を承っています。「現状は分かったが、どこを目指すべきか判断できない」という場合も、お気軽にお問い合わせください。

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