テスト設計技法の選び方と適用手順を徹底解説

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目次

テスト設計とは?基本概念の理解

テスト設計とは、ソフトウェアの品質を確保するために、効果的なテストケースを体系的に作成する技術です。単なるテスト実行ではなく、要件や仕様書からテスト観点を抽出し、適切な技法を選択してテストケースを設計する重要なプロセスです。

テスト設計の目的と重要性

テスト設計の本質は「限られたリソースで最大の欠陥検出効果を得ること」にあります。全ての組み合わせをテストすることは現実的に不可能であり、戦略的なアプローチが求められます。適切なテスト設計により、テスト工数を30〜50%削減しながら、欠陥検出率を20〜40%向上させることが可能です。

テスト設計と他のテスト活動との関係

テスト設計はテストプロセス全体の中核を担います。テスト計画で定義された方針に基づき、テスト分析で抽出した条件を具体的なテストケースに落とし込みます。この段階での品質が、後続のテスト実行の効率と効果を大きく左右します。

テスト設計技法の種類と分類

ブラックボックステスト技法

内部構造を考慮せず、入力と出力の関係に着目する技法です。仕様ベーステストとも呼ばれ、ユーザー視点での品質保証に適しています。

同値分割法(Equivalence Partitioning)

入力値を有効・無効なグループに分類し、各グループから代表値を選択してテストします。

適用例:年齢入力フィールド(0〜120歳が有効)

  • 有効同値クラス:1〜119歳(代表値:30歳)
  • 無効同値クラス1:マイナス値(代表値:-1歳)
  • 無効同値クラス2:上限超過(代表値:121歳)
  • 無効同値クラス3:数値以外(代表値:「abc」)

活用ポイント:同値クラスの境界を明確に定義し、各クラスが互いに排他的であることを確認します。また、複数の入力項目がある場合は、各項目の同値クラスを組み合わせて設計します。

境界値分析(Boundary Value Analysis)

境界付近の値でテストケースを作成します。経験的に、境界付近で欠陥が発見される確率が高いことが知られています。

2点境界値分析の例(0〜100の範囲)

  • 最小値:0
  • 最小値+1:1
  • 最大値-1:99
  • 最大値:100

3点境界値分析の例(より厳密)

  • 最小値-1:-1(無効)
  • 最小値:0(有効)
  • 最小値+1:1(有効)
  • 最大値-1:99(有効)
  • 最大値:100(有効)
  • 最大値+1:101(無効)

活用ポイント:数値範囲だけでなく、文字列長、配列サイズ、日付範囲などにも適用できます。特に金融システムや医療システムでは、境界値での動作が業務に直結するため重要です。

デシジョンテーブル(Decision Table)

複数条件の組み合わせを網羅的に検証します。条件が3〜6個程度で、条件間に依存関係がある場合に特に有効です。

適用例:会員割引システム

条件ケース1ケース2ケース3ケース4
会員登録済みYesYesNoNo
購入金額1万円以上YesNoYesNo
結果:割引率15%10%0%0%

活用ポイント:条件が多い場合は組み合わせ爆発が起こるため、リスクベースで重要な組み合わせに絞り込みます。また、ペアワイズ法と組み合わせることで効率化できます。

状態遷移テスト(State Transition Testing)

システムの状態とイベントによる遷移を図式化し、全ての遷移パターンをテストします。

適用例:ATMの状態遷移

  1. 待機状態 → カード挿入 → 認証状態
  2. 認証状態 → PIN入力成功 → メニュー表示状態
  3. 認証状態 → PIN入力失敗3回 → カード没収状態
  4. メニュー表示状態 → 取引完了 → 待機状態

網羅基準

  • 0-スイッチ網羅:全ての状態を最低1回訪問
  • 1-スイッチ網羅:全ての遷移を最低1回実行
  • 2-スイッチ網羅:全ての遷移ペアを実行

活用ポイント:組み込みシステム、ワークフローシステム、通信プロトコルなど、明確な状態を持つシステムに最適です。

ユースケーステスト

ユーザーの実際の利用シナリオに基づいてテストケースを設計します。業務フローの検証に効果的です。

適用例:ECサイトでの購入フロー

  1. 基本フロー:商品検索 → カート追加 → 購入手続き → 決済完了
  2. 代替フロー:在庫切れ時の通知表示
  3. 例外フロー:決済エラー時のリトライ処理

活用ポイント:基本フロー、代替フロー、例外フローを漏れなく識別し、実際のユーザー行動パターンを反映させます。

ホワイトボックステスト技法

プログラムの内部構造に基づいてテストケースを設計する技法です。構造ベーステストとも呼ばれ、コードレベルでの品質保証に適しています。

命令網羅(Statement Coverage, C0)

すべてのプログラム文を最低1回実行します。最も基本的な網羅基準ですが、これだけでは不十分なケースが多くあります。

目標値:通常80%以上、クリティカルなモジュールでは90%以上

分岐網羅(Branch Coverage, C1)

すべての条件分岐(if, switch文など)の真偽両方をテストします。命令網羅よりも強力な基準です。

目標値:通常70%以上、重要モジュールでは85%以上

コード例

if (x > 0 and y > 0):  # 条件A
    result = "positive"
else:
    result = "other"

分岐網羅では以下をテスト:

  • 条件Aが真の場合(例:x=1, y=1)
  • 条件Aが偽の場合(例:x=-1, y=1)

条件網羅(Condition Coverage, C2)

複合条件内の各単純条件が真偽両方を取るケースをテストします。

コード例(上記と同じ)の場合

  • x > 0 が真、偽の両方
  • y > 0 が真、偽の両方

複合条件網羅(Modified Condition/Decision Coverage, MC/DC)

航空宇宙など高信頼性が求められる分野で使用される厳密な基準です。各条件が結果に独立して影響することを確認します。

活用ポイント:コストと効果のバランスを考慮し、クリティカルな機能には厳密な網羅基準を、それ以外には基本的な基準を適用します。

経験ベーステスト技法

テスト担当者の知識と経験を活用する技法です。形式的な技法では見逃しがちな欠陥を発見できます。

エラー推測(Error Guessing)

過去の経験や欠陥パターンから、障害が発生しやすい箇所を予測してテストします。

一般的なエラーパターン

  • NULL値やゼロ除算
  • 配列の境界外アクセス
  • メモリリーク
  • 同時実行時の競合
  • タイムアウト処理の不備
  • 文字エンコーディングの問題

活用ポイント:過去プロジェクトの欠陥データベースを分析し、頻出パターンをチェックリスト化します。

探索的テスト(Exploratory Testing)

学習・設計・実行を同時進行で行う、動的なテストアプローチです。セッションベースドテストマネジメント(SBTM)で管理します。

探索的テストのセッション構造

  1. チャーター設定(60〜120分):「ログイン機能の認証メカニズムを探索する」
  2. 探索実行:学習しながらテストケースを発見
  3. 振り返り:発見事項の記録と次セッションの計画

活用ポイント:仕様が曖昧な機能や、ユーザビリティの評価に効果的です。ただし、再現性を確保するため、実行内容は必ず記録します。

テスト設計技法の選び方の基準

プロジェクト特性による選択

システムの種類別推奨技法

Webアプリケーション

  • 入力検証:境界値分析、同値分割法
  • 業務フロー:ユースケーステスト、状態遷移テスト
  • セキュリティ:エラー推測、探索的テスト

組み込みシステム

  • 状態管理:状態遷移テスト(必須)
  • リアルタイム性:タイミングテスト
  • リソース制約:境界値分析(メモリ、CPU使用率)

モバイルアプリケーション

  • デバイス依存性:ペアワイズ法(機種×OS×画面サイズ)
  • ユーザビリティ:探索的テスト
  • ネットワーク変動:状態遷移テスト

APIサービス

  • パラメータ検証:同値分割法、境界値分析
  • エラーハンドリング:デシジョンテーブル
  • 負荷特性:性能テスト(技法外)

開発工程別の適用

単体テスト段階

  • 主技法:ホワイトボックス技法(分岐網羅中心)
  • 補助:同値分割法、境界値分析
  • 目標:コードカバレッジ80%以上

結合テスト段階

  • 主技法:状態遷移テスト、インターフェーステスト
  • 補助:デシジョンテーブル
  • 目標:モジュール間の連携検証

システムテスト段階

  • 主技法:ユースケーステスト、シナリオテスト
  • 補助:探索的テスト
  • 目標:業務要件の充足確認

受け入れテスト段階

  • 主技法:ユースケーステスト(ユーザー視点)
  • 補助:探索的テスト
  • 目標:実際の業務での利用可能性

リスクレベルによる判断

リスク評価マトリクス

影響度/発生確率
最重要(徹底検証)重要中程度
重要中程度軽微
中程度軽微最軽微

リスクレベル別のテスト密度

最重要(クリティカル)機能

  • 複数技法の組み合わせ(3種以上)
  • ホワイトボックス技法で内部品質も検証
  • コードカバレッジ90%以上
  • レビュー工程を2回以上実施
  • 例:金融取引処理、医療機器制御、個人情報処理

重要機能

  • 主要技法2種類の適用
  • ブラックボックス技法中心
  • コードカバレッジ80%以上
  • 例:ユーザー認証、データ保存、検索機能

中程度機能

  • 基本技法1種類(同値分割法または境界値分析)
  • コードカバレッジ70%以上
  • 例:表示機能、設定変更、ログ出力

軽微機能

  • 基本的な動作確認のみ
  • スモークテスト程度
  • 例:ヘルプ表示、静的コンテンツ表示

テスト対象の特性による判断

入力の複雑さ

単一入力項目

  • 同値分割法 + 境界値分析(基本セット)

複数入力項目(2〜3個)

  • 各項目に同値分割法を適用
  • 重要な組み合わせのみデシジョンテーブル

複数入力項目(4個以上)

  • ペアワイズ法で組み合わせを削減
  • リスクが高い組み合わせは全組み合わせテスト

処理の複雑さ

単純な条件分岐(1〜2個)

  • 同値分割法で十分

複雑な条件分岐(3個以上)

  • デシジョンテーブル必須
  • ホワイトボックス技法で内部パスも検証

状態を持つ処理

  • 状態遷移テスト必須
  • 不正遷移のテストも実施

データ変換・計算処理

  • 境界値分析で極値を検証
  • 代表的な中間値も確認

テスト設計の適用手順

ステップ1:要件分析とテスト観点の抽出

要件仕様書の分析手法

機能要件の整理

  1. 機能一覧の作成:全機能を階層化して整理
  2. 機能ごとの入出力の明確化:何を受け取り、何を返すか
  3. 制約条件の抽出:前提条件、制限事項、例外処理

非機能要件の整理

  1. 性能要件:応答時間、処理能力、スループット
  2. セキュリティ要件:認証、認可、データ保護
  3. 使いやすさ要件:操作性、アクセシビリティ
  4. 信頼性要件:可用性、障害復旧、データ整合性

テスト観点抽出の実践テクニック

STRIDE脅威モデル(セキュリティ観点)

  • Spoofing(なりすまし)
  • Tampering(改ざん)
  • Repudiation(否認)
  • Information Disclosure(情報漏洩)
  • Denial of Service(サービス拒否)
  • Elevation of Privilege(権限昇格)

品質特性別チェックリスト(ISO/IEC 25010準拠)

  • 機能適合性:完全性、正確性、適切性
  • 性能効率性:時間効率性、資源効率性
  • 互換性:共存性、相互運用性
  • 使用性:認知性、習得性、操作性
  • 信頼性:成熟性、可用性、障害許容性
  • セキュリティ:機密性、完全性、真正性
  • 保守性:モジュール性、再利用性、修正性
  • 移植性:適応性、置換性

優先度設定の実践的アプローチ

MoSCoW法による優先度分類

  • Must have(必須):ビジネスに不可欠
  • Should have(重要):重要だが代替案あり
  • Could have(あれば良い):優先度は低い
  • Won’t have(不要):今回は対象外

数値化による定量評価

優先度スコア = (ビジネス価値 × 3) + (欠陥発生リスク × 2) + (影響範囲 × 2)

各要素を1〜5で評価
- ビジネス価値:収益への影響度
- 欠陥発生リスク:過去の実績、複雑度
- 影響範囲:影響するユーザー数、システム範囲

ステップ2:テスト技法の選択

技法選択フローチャート

開始
  ↓
仕様は明確か?
  → No → 探索的テスト中心
  → Yes ↓
条件分岐は複雑か?(3個以上)
  → Yes → デシジョンテーブル
  → No ↓
状態を持つか?
  → Yes → 状態遷移テスト
  → No ↓
入力値に範囲があるか?
  → Yes → 境界値分析 + 同値分割法
  → No ↓
シナリオ性が重要か?
  → Yes → ユースケーステスト
  → No → 基本的なブラックボックステスト

複数技法の組み合わせパターン

パターン1:基本的な機能の検証

  • 同値分割法(入力値の分類)
  • 境界値分析(極値の検証)
  • 適用割合:70%同値分割、30%境界値

パターン2:複雑な業務ロジックの検証

  • デシジョンテーブル(条件の組み合わせ)
  • 状態遷移テスト(状態管理)
  • ユースケーステスト(業務フロー)
  • 適用割合:40%デシジョン、30%状態遷移、30%ユースケース

パターン3:クリティカル機能の徹底検証

  • ホワイトボックス技法(コードカバレッジ)
  • ブラックボックス技法(仕様カバレッジ)
  • エラー推測(経験的な欠陥予測)
  • 探索的テスト(予期しない問題の発見)
  • 適用割合:30%ホワイト、40%ブラック、15%エラー推測、15%探索的

ステップ3:テストケース設計の実践

テストケースの記述形式

標準的なテストケーステンプレート

項目内容
テストIDTC-LOGIN-001
テスト項目正常なログイン処理
前提条件– ユーザーアカウントが登録済み<br>- ログアウト状態
テストデータユーザーID: test_user<br>パスワード: P@ssw0rd
操作手順1. ログイン画面を開く<br>2. ユーザーIDを入力<br>3. パスワードを入力<br>4. ログインボタンをクリック
期待結果– ホーム画面に遷移する<br>- ユーザー名が表示される<br>- セッションが確立される
実際の結果(実行時に記入)
合否(実行時に記入)
備考初回ログイン時の動作も別途確認

テストケース作成のベストプラクティス

明確性の確保

  • 曖昧な表現を避ける(「適切に」「正しく」等の排除)
  • 定量的な期待結果を記述(「速い」→「3秒以内」)
  • 第三者が実行できるレベルの詳細度

再現性の確保

  • 環境情報の明記(OS、ブラウザ、データベース状態)
  • テストデータの具体的な値
  • 実行順序の依存関係

保守性の確保

  • テストケースIDの体系的な命名規則
  • 変更履歴の記録
  • トレーサビリティ情報(要件IDとの紐付け)

技法別の具体的な設計例

同値分割法の実践例:会員区分による料金計算

入力:会員区分(一般、シルバー、ゴールド、プラチナ)

テストケース会員区分購入金額期待される割引率
TC-001一般5,000円0%
TC-002シルバー5,000円5%
TC-003ゴールド5,000円10%
TC-004プラチナ5,000円15%
TC-005(無効)不正な値5,000円エラーメッセージ

境界値分析の実践例:年齢制限チェック(18歳以上)

テストケース年齢期待結果備考
TC-00117歳NG最小値-1(無効)
TC-00218歳OK最小値(有効)
TC-00319歳OK最小値+1(有効)
TC-004119歳OK最大値-1(有効)
TC-005120歳OK最大値(有効)
TC-006121歳NG最大値+1(無効)

デシジョンテーブルの実践例:送料計算

条件R1R2R3R4R5R6R7R8
購入金額5,000円以上YYYYNNNN
会員登録済みYYNNYYNN
お急ぎ便YNYNYNYN
送料50008003008003001000500

ステップ4:レビューと改善

テスト設計レビューのチェックポイント

網羅性の確認

  • □ 全ての要件に対応するテストケースが存在するか
  • □ 同値クラスの境界が正しく定義されているか
  • □ 例外処理やエラーケースが含まれているか
  • □ 非機能要件のテストケースがあるか

正確性の確認

  • □ 期待結果が明確で検証可能か
  • □ テストデータが適切に設定されているか
  • □ 前提条件が明示されているか
  • □ 操作手順に漏れや曖昧さがないか

効率性の確認

  • □ 重複するテストケースはないか
  • □ 優先度が適切に設定されているか
  • □ 実行可能性(時間、リソース)は考慮されているか

レビュー手法の選択

インスペクション(公式レビュー)

  • 参加者:モデレーター、作成者、レビュアー(3〜5名)
  • 準備時間:各自2時間程度の事前レビュー
  • 会議時間:1〜2時間
  • 効果:欠陥検出率70〜90%

ウォークスルー(非公式レビュー)

  • 参加者:作成者、関係者(2〜3名)
  • 時間:30分〜1時間
  • 効果:欠陥検出率40〜60%

ピアレビュー(相互レビュー)

  • 参加者:2名(作成者、レビュアー1名)
  • 時間:30分〜1時間
  • 効果:欠陥検出率30〜50%

テスト設計における品質向上のポイント

トレーサビリティの確保

トレーサビリティマトリクスの作成

要件ID要件名テストケースID技法実施状況欠陥ID
REQ-001ユーザーログインTC-001, TC-002, TC-003同値分割完了
REQ-002パスワードリセットTC-010, TC-011状態遷移実行中BUG-042
REQ-003会員情報変更TC-020〜TC-025境界値分析未実施

トレーサビリティの3つのレベル

  1. 前方トレーサビリティ:要件→テストケース
    • 全要件がテストされていることを確認
  2. 後方トレーサビリティ:テストケース→要件
    • 不要なテストケースがないことを確認
  3. 双方向トレーサビリティ:上記両方を維持
    • 変更影響分析が可能

テスト観点の漏れ防止

マインドマップを活用したテスト観点抽出

ログイン機能
├─ 認証
│  ├─ 正常系
│  │  ├─ 正しいID/PW
│  │  └─ 大文字小文字
│  └─ 異常系
│     ├─ 誤ったPW
│     ├─ 存在しないID
│     └─ ロックアウト
├─ セキュリティ
│  ├─ SQLインジェクション
│  ├─ XSS
│  └─ セッション管理
├─ ユーザビリティ
│  ├─ エラーメッセージ
│  ├─ パスワード表示/非表示
│  └─ オートコンプリート
└─ 性能
   ├─ 応答時間
   └─ 同時ログイン数

FTA(Fault Tree Analysis)による欠陥予測

トップダウンで障害要因を分析し、テスト観点を抽出します。

【トップイベント】ログインできない

├─ AND ─┬─ 認証失敗
│        ├─ OR ─┬─ 誤ったパスワード
│        │       ├─ タイプミス
│        │       ├─ Caps Lock ON
│        │       └─ 期限切れPW
│        └─ OR ─┬─ アカウント問題
│                ├─ アカウントロック
│                ├─ 削除済みアカウント
│                └─ 権限不足
└─ システムエラー
   ├─ データベース接続失敗
   ├─ 認証サーバーダウン
   └─ ネットワークエラー

定量的な網羅率測定

テスト網羅率の計算式

要件カバレッジ

要件カバレッジ(%) = (テスト済み要件数 / 全要件数) × 100
目標:100%(全要件をカバー)

コードカバレッジ(C1: 分岐網羅)

分岐カバレッジ(%) = (実行された分岐数 / 全分岐数) × 100
目標:クリティカル機能85%以上、通常機能70%以上

デシジョンカバレッジ

条件組み合わせカバレッジ = (テストした組み合わせ数 / 全組み合わせ数) × 100

品質メトリクスの活用

欠陥密度

欠陥密度 = 発見欠陥数 / (KLOC or FP)
KLOC: 1000行あたりのコード行数
FP: ファンクションポイント

業界平均:10〜50件/KLOC(開発段階による)

テスト密度

テスト密度 = テストケース数 / (KLOC or FP)

目標:2〜5件/KLOC(システム特性による)

欠陥除去効率(DRE: Defect Removal Efficiency)

DRE(%) = (テストで検出した欠陥数 / 総欠陥数) × 100

総欠陥数 = テスト検出欠陥 + 本番検出欠陥

目標:95%以上(クリティカルシステム)、85%以上(通常システム)

よくある課題と解決策

課題1:テスト観点の抽出不足

問題の兆候

  • 本番環境で想定外のバグが頻発
  • レビューで指摘される観点漏れが多い
  • 機能テストに偏り、非機能要件が未検証

根本原因

  • 要件の理解不足
  • テスト観点抽出の手法を知らない
  • レビュープロセスの不備

解決策

1. 構造化された抽出手法の導入

テスト観点チェックリストの例:

機能性観点

  • □ 正常系の動作確認
  • □ 異常系・エラーハンドリング
  • □ 境界値での動作
  • □ 前提条件の検証
  • □ データの整合性

非機能性観点

  • □ 性能要件(応答時間、スループット)
  • □ セキュリティ(認証、認可、暗号化)
  • □ ユーザビリティ(操作性、メッセージの適切性)
  • □ 信頼性(エラー回復、データ保護)
  • □ 互換性(ブラウザ、デバイス、OS)
  • □ 保守性(ログ出力、設定変更の容易さ)

2. ペルソナ・シナリオ法の活用

実際のユーザー視点でテスト観点を発見:

ペルソナ:田中さん(50代、IT初心者)
シナリオ:初めて会員登録を行う

発見されるテスト観点:
- エラーメッセージのわかりやすさ
- 入力補助機能(郵便番号から住所自動入力)
- パスワード強度のリアルタイム表示
- 確認画面の必要性

3. 3C分析によるテスト観点の拡張

  • Customer(顧客)視点:ユーザビリティ、アクセシビリティ
  • Company(自社)視点:保守性、運用性、コスト
  • Competitor(競合)視点:差別化ポイント、品質比較

課題2:技法選択の判断基準が曖昧

問題の兆候

  • 常に同じ技法しか使わない
  • 技法選択の根拠を説明できない
  • 効率の悪いテスト設計になっている

解決策

技法選択決定木の作成

Q1: 仕様は明確に定義されているか?
  No → 探索的テスト + エラー推測
  Yes ↓
  
Q2: 条件分岐の数は?
  0〜1個 → 基本的なブラックボックステスト
  2〜3個 → デシジョンテーブル推奨
  4個以上 → ペアワイズ法 + デシジョンテーブル(重要部分)
  
Q3: システムは状態を持つか?
  Yes → 状態遷移テスト必須
  No → 次へ
  
Q4: 入力値に範囲や制約があるか?
  Yes → 境界値分析 + 同値分割法
  No → ユースケーステスト

過去プロジェクトのデータベース化

プロジェクト機能種別選択技法欠陥検出数工数効率性評価
ECサイトカート機能同値分割+境界値8件16時間★★★★
ECサイト決済処理デシジョンテーブル12件24時間★★★★★
予約システム予約管理状態遷移15件32時間★★★★

課題3:テストケースの保守コスト増大

問題の兆候

  • 仕様変更のたびに大量のテストケース修正
  • テストケースの重複が多い
  • 実行不可能なテストケースが放置

解決策

1. テストケースの階層化

レベル1: テスト観点(再利用性:高)
  └─ 入力検証
       └─ レベル2: テスト条件(再利用性:中)
            └─ 年齢は0〜120の範囲
                 └─ レベル3: 具体的テストケース(再利用性:低)
                      ├─ TC-001: 年齢=-1(境界値-1)
                      ├─ TC-002: 年齢=0(境界値)
                      ├─ TC-003: 年齢=1(境界値+1)
                      └─ ...

仕様変更時は該当するレベルのみ修正し、下位レベルを自動生成できる。

2. パラメータ化テストの導入

テストケースのテンプレート化:

# テストケーステンプレート
def test_age_validation(age, expected_result):
    result = validate_age(age)
    assert result == expected_result

# テストデータ(パラメータ)
test_data = [
    (-1, "ERROR"),
    (0, "OK"),
    (1, "OK"),
    (120, "OK"),
    (121, "ERROR")
]

# パラメータ化実行
for age, expected in test_data:
    test_age_validation(age, expected)

3. テストケースのモジュール化

共通操作を部品化:

【部品】ログイン操作
  1. ログイン画面を開く
  2. ユーザーID「{uid}」を入力
  3. パスワード「{pwd}」を入力
  4. ログインボタンをクリック

【テストケース】購入処理
  前提:【部品】ログイン操作(uid="test", pwd="pass")
  手順:
    1. 商品検索で「{商品名}」を検索
    2. カートに追加
    ...

課題4:テスト実行時間の長期化

解決策

リスクベースドテスト実行の優先順位付け

優先度1(毎日実行):
- クリティカル機能のスモークテスト
- 前回変更箇所の回帰テスト
- 実行時間:30分以内

優先度2(ビルドごと実行):
- 主要機能の基本テスト
- 実行時間:2時間以内

優先度3(週次実行):
- 全機能の詳細テスト
- 実行時間:8時間以内

優先度4(リリース前実行):
- 探索的テスト含む全テスト
- 実行時間:制限なし

テスト自動化の戦略的導入

テスト種別自動化優先度理由
回帰テスト最高繰り返し実行、安定した手順
データドリブンテストパラメータ変更のみで大量実行
スモークテスト頻繁に実行、基本動作確認
探索的テスト創造性が必要、手順が流動的
ユーザビリティテスト人間の判断が必要

課題5:非機能要件のテスト不足

解決策

非機能テストの体系的アプローチ

性能テスト観点

  • 応答時間:画面表示3秒以内
  • スループット:同時100ユーザーで処理可能
  • リソース使用率:CPU 70%以下、メモリ80%以下
  • 耐久性:24時間連続稼働でパフォーマンス劣化なし

セキュリティテスト観点

  • 認証:ブルートフォース攻撃への耐性
  • 認可:権限外アクセスの防止
  • 入力検証:SQLインジェクション、XSS対策
  • データ保護:個人情報の暗号化、マスキング
  • セッション管理:タイムアウト、固定化攻撃対策

ユーザビリティテスト観点

  • 学習容易性:初回利用者が10分で基本操作を習得
  • 効率性:熟練者が目的達成まで平均2分
  • エラー許容性:誤操作しても簡単に復旧可能
  • 視認性:色覚異常者でも情報が識別可能(WCAG 2.1 AA準拠)

実践的なケーススタディ

ケース1:ECサイトの商品購入機能

システム概要

  • オンラインショッピングサイト
  • 会員登録、商品検索、カート、決済機能
  • クリティカルな機能:決済処理

テスト設計アプローチ

ステップ1:テスト観点の抽出

主要な観点:

  1. 商品選択の正確性
  2. カート操作(追加、削除、数量変更)
  3. 在庫管理との連携
  4. 決済処理の正確性
  5. 購入確定とメール送信
  6. 性能(同時アクセス対応)
  7. セキュリティ(個人情報保護)

ステップ2:技法の選択

機能選択技法理由
商品検索同値分割法、境界値分析入力パラメータの検証
カート操作状態遷移テストカートの状態変化を管理
決済処理デシジョンテーブル支払方法、割引条件の複雑な組み合わせ
購入フロー全体ユースケーステストエンドツーエンドのシナリオ検証
セキュリティエラー推測、探索的テスト脆弱性の発見

ステップ3:デシジョンテーブルの例(決済処理)

条件R1R2R3R4R5R6R7R8
会員ランク:プラチナYYYYNNNN
購入金額:10,000円以上YYNNYYNN
クーポン使用YNYNYNYN
適用割引率25%20%20%15%15%10%10%0%
送料無料無料無料無料無料無料500円500円

ステップ4:状態遷移図(カート機能)

[空カート] →(商品追加)→ [商品あり]
              ↓
              (数量変更)
              ↓
         [商品あり] →(全削除)→ [空カート]
              ↓
            (購入手続き開始)
              ↓
         [購入手続き中] →(決済完了)→ [購入完了]
              ↓              ↑
            (キャンセル)      |
              ↓              |
         [空カート] ←─────────┘

成果

  • テストケース数:180件
  • 設計期間:3週間(3名)
  • 欠陥検出数:42件(決済処理で15件の重要欠陥を発見)
  • 本番リリース後の欠陥:2件(軽微なUI問題のみ)

ケース2:医療機器の組み込みシステム

システム概要

  • 患者モニタリング装置
  • リアルタイム測定、アラーム機能
  • クリティカル:生命に関わるシステム

テスト設計アプローチ

リスク分析

  • 最高リスク:アラーム機能の誤動作(鳴らない、誤報)
  • 高リスク:測定値の誤表示、データ記録の欠損
  • 中リスク:バッテリー管理、ネットワーク接続

技法選択

  • 状態遷移テスト(必須):デバイスの動作モード管理
  • 境界値分析:センサー値の閾値テスト
  • ホワイトボックステスト:MC/DC(Modified Condition/Decision Coverage)
  • ストレステスト:電源瞬断、ノイズ耐性

テスト密度

  • コードカバレッジ目標:95%以上(C1)
  • アラーム機能:100%の経路を検証
  • テストケース数:機能あたり平均50件(通常システムの5倍)

成果

  • 厳密なテスト設計により、規制当局の承認を取得
  • 本番運用3年間で重大インシデント:0件

まとめ

テスト設計の成功要因

1. 体系的なアプローチ: 経験則だけに頼らず、確立された技法を組織的に適用することで、安定した品質を実現できます。要件分析からテストケース作成まで、各ステップを丁寧に実施することが重要です。

2. リスクベースの優先順位付け: 無限のリソースは存在しません。ビジネス影響度と技術的複雑度を考慮し、クリティカルな領域に注力することで、限られたリソースで最大の効果を得られます。

3. 適切な技法の組み合わせ: 単一の技法で全てをカバーすることはできません。対象の特性に応じて、ブラックボックス、ホワイトボックス、経験ベースの技法を戦略的に組み合わせることが効果的です。

4. 継続的な改善: プロジェクトごとに振り返りを行い、効果的だった技法や発見された欠陥パターンを蓄積します。この学習サイクルにより、組織全体のテスト設計能力が向上します。

5. トレーサビリティの維持: 要件とテストケースの対応関係を明確にすることで、変更影響分析が容易になり、保守コストを削減できます。

次のステップ

  1. 自組織の現状評価
    • 現在使用している技法の棚卸し
    • 過去プロジェクトの欠陥分析
    • テスト設計プロセスの成熟度評価
  2. パイロットプロジェクトでの実践
    • 小規模なプロジェクトで新しい技法を試行
    • 効果測定と改善点の抽出
    • 成功パターンの文書化
  3. 組織展開
    • テスト設計ガイドラインの作成
    • 技法選択の決定木を組織標準化
    • 定期的なスキルアップ研修の実施
  4. 自動化との連携
    • 自動化に適したテストケースの識別
    • テスト設計情報の構造化データ化
    • CI/CDパイプラインへの統合

テスト設計は、ソフトウェア品質の土台となる重要な活動です。適切な技法の選択と体系的な適用により、効率的かつ効果的な品質保証を実現し、より高品質なソフトウェア開発を推進できます。継続的な学習と実践を通じて、組織全体のテスト設計能力を向上させていきましょう。

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