はじめに:「マニュアルを作る時間がない」という声から作りました
「新しく入った人に教える手順書を作りたい。でも、作る時間が誰にもない」
現場を持つ企業の方とお話ししていると、必ずと言っていいほどこの話になります。手順書が必要なことは全員わかっている。それでも後回しになり、結局はベテランが横について口頭で教える体制から抜け出せない。
そこで自社で開発したのが、「作業の様子を撮った動画をアップロードするだけで、AIが手順書を自動で組み立てるシステム」です。撮影した動画を画面から選んで送信すると、あとは待つだけ。作業の場面が切り替わるところで自動的に画像が切り出され、話している内容が文字に起こされ、「手順1・手順2・手順3……」という形に整理された手順書が画面に出来上がります。
さらに、できあがった手順書はベトナム語・インドネシア語での表示、Word形式での書き出し、現場に持ち出す紙のチェックリスト印刷、そしてログイン不要の共有URL発行まで対応しています。この記事では、どんな課題に対して何を作り、どこに手間をかけたのかをご紹介します。

導入前の課題:手順書は「作れない」のではなく「作り切れない」
現場の方に話を伺っていくと、会社は違っても、共通して次のような状態が起きていました。
手順が特定の人の頭の中にしかない
作業のコツや注意点は、長く現場に立っている方の経験として蓄積されています。ただ、それが文書になっていないため、教えられるのはその人だけ。その人が別の現場に入っている日は、新人が手を止めて待つことになります。人が増えるほど、この「教える時間」が現場の負担として積み上がっていきます。
作ろうとすると、丸一日仕事になる
実際に手順書を作ろうとすると、工程はこれだけあります。
- 作業の様子を撮影する
- 動画をパソコンに取り込み、必要な場面を探して静止画として切り出す
- その場面で何をしているかを思い出しながら文章にする
- Word や Excel に画像を貼り、説明文を並べる
- 体裁を整える
1本の手順書を作るのに、慣れた人でも半日から丸一日。これを作業の種類の数だけ繰り返すのは、通常業務と並行しては現実的ではありません。結果として「今度やろう」が続きます。
言葉が通じない相手に、口頭で教えられない
現場に外国籍のスタッフが入ることは、いまや珍しくありません。しかし口頭説明は伝わったかどうかの確認が難しく、身振り手振りに頼る場面が出てきます。かといって、日本語の手順書を翻訳会社に出すのは費用も時間もかかり、手順が変わるたびに出し直すことはできません。
作った手順書が、更新されないまま古くなる
苦労して作った手順書ほど、直すのが億劫になります。使う工具が変わっても、順番が変わっても、ファイルは古いまま。やがて「あれはもう当てにならない」と言われるようになり、また口頭に戻る——この繰り返しが起きていました。
つまり課題は、手順書を作る意思がないことではなく、作る作業そのものが重すぎて、業務の合間に収まらないことでした。
解決方法:動画を上げたら、あとは自動で手順書になる仕組み
そこで開発したのが、動画からマニュアルを自動生成するWebシステムです。全体像はシンプルで、利用する側がやることは「動画をアップロードする」の一手だけです。
システムがやっていること
アップロードされた動画に対して、システムは裏側で次の処理を順番に進めます。
- 場面の切り替わりを見つけて画像にする — 動画の中で映像が大きく変わったところを検出し、その瞬間を静止画として自動で切り出します。手作業で「ここ」と探す必要はありません
- 話している内容を文字にする — 動画から音声を取り出し、AIが文字に起こします。作業中の説明やコツが、そのまま文章の材料になります
- AIが手順として組み立てる — 切り出した画像と文字起こしをAIがまとめて読み、「手順ごとのタイトル・説明文・安全上の注意点・使う工具・対応する画像・動画内の再生位置」という形に整理します
処理が終わると、画像付きの手順書が画面上に完成します。利用者が入力するのは、動画とタイトルだけです。
導入前と導入後の比較
| 項目 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 手順書1本を作る作業 | 撮影・取り込み・場面探し・文字起こし・貼り付けの5工程 | 動画をアップロードする1工程 |
| 所要時間の目安 | 半日〜丸一日(担当者が張り付く) | アップロード後は待つだけ(※) |
| 作れる人 | 資料作成に慣れた特定の担当者 | 動画を撮れる人なら誰でも |
| 外国籍スタッフ向け | 翻訳会社へ都度依頼 | 画面上で言語を切り替えて表示 |
| 現場への持ち出し | 印刷用に別途レイアウトを整える | チェックリストPDFをそのまま印刷 |
| 協力会社への共有 | ファイルをメールで送付 | URL(QRコード)を渡すだけ |
※ 処理時間は動画の長さによって変わります。5分程度の動画を想定した設計です。
手順書ができた後にできること
生成して終わりではなく、その後の使い方まで含めて実装しています。
- 手直しができる — AIが作った手順のタイトル・説明文・注意点は画面から編集でき、手順の並べ替え、手順の追加・削除、使う画像の差し替えも可能です。動画の別の場面を選び直して画像として使うこともできます
- 多言語で表示できる — ベトナム語・インドネシア語に翻訳した内容へ画面上で切り替えられます。翻訳もAIが行うため、翻訳会社への依頼は不要です
- 書き出せる — Word形式(画像入り)と、社内Wiki等へ取り込みやすいMarkdown形式(画像同梱)でダウンロードできます
- 紙のチェックリストになる — 手順ごとの確認項目をAIが下書きし、編集したうえでA4の印刷用PDFとして出力できます。紙面には手順の説明・注意点・使う工具も印字されます。あらかじめ共有URLを発行しておけば、その紙にQRコードが載るため、現場でスマホをかざせば動画付きの手順を確認できます。複数のマニュアル分をまとめて1つのPDFにする機能も備えています
- 社外に共有できる — 協力会社など、アカウントを持たない相手には、ログイン不要で閲覧できる共有URLを発行できます。公開・停止はいつでも切り替えられます
技術面について(安心材料として)
システムは、企業向けWebシステムで長く使われている実績のある構成で構築しています。動画の処理や文字起こしといった時間のかかる作業は、画面の裏側で順番に処理する仕組みを取っているため、利用者を待たせません。利用にあたって特別な機材やソフトの導入は不要で、パソコンやスマートフォンのブラウザだけで完結します。また、元の動画は手順書の完成後もシステム内に保存しているため、後から「この場面の画像を使いたい」と思ったときに撮り直す必要はありません。
開発で手間をかけたこと
このシステムで最も手間をかけたのは、AIの精度そのものよりも「現場の人が、迷わず・待たされず・失敗しても困らない」状態をどう作るかでした。
待たせない、そして進み具合が見える
動画の処理には数分から十数分かかります。その間ずっと「処理中です」の画面を見せていては、業務が止まってしまいます。そこで、アップロードした瞬間に一覧画面へ戻る設計にしました。処理は裏側で進み、一覧の状態表示(アップロード済み/画像を抽出中/文字起こし中/作成中/完了)が自動で切り替わっていきます。利用者は他の仕事をしながら、ときどき画面を見に来ればよい形です。
失敗しても、そこで詰まらない
AIを使う以上、通信の不調などで途中で止まることはあります。そのときに「なぜ止まったのか分からない」状態になると、現場では手の出しようがありません。そこで、どこまで進んでどこで止まったのかが画面に残るようにしました。「文字起こしに失敗しました」といった分かる言葉で表示され、その場で「やり直す」ボタンを押せば最初から作り直せます。中途半端に残ったデータは自動で片付けられるため、失敗をそのままにしておいても、次に使うときに困ることはありません。
「手順が飛ばない、写真が見て分かる」ところまで詰める
自動で作った手順書がそのまま使えるかどうかは、動画のどの場面を写真として拾うかでほぼ決まります。拾い方が粗いと大事な工程が飛び、細かすぎると似たような写真が並んで、かえって読みにくい手順書になります。写真の解像度も同じで、粗ければ手元が見えず、高すぎれば表示が重くなります。
ここは正解が決まっている部分ではないため、調整を重ねて「1本の手順書に載る写真は多くなりすぎない」「印刷しても手元の作業が見て分かる」という落としどころを決めました。利用する方が完成後に手直しする量を、できるだけ減らすための調整です。
AIが作ったものを、そのまま信用しない
AIは、もっともらしい形で間違えることがあります。存在しない写真を指定してくる、手順の番号が飛ぶ、といったことが起こり得ます。そこで、AIが返してきた内容はシステム側で必ず確認し、指定された写真が実際にあるか、手順の番号に抜けや重複がないかを検めてから保存する形にしました。おかしな内容が紛れ込んだまま手順書として残ってしまうことを防ぐためです。
あわせて、動画の中で誰かが話した言葉や、映り込んだ文字を、AIへの指示として受け取らないようにしています。作業中の何気ない一言で、手順書の内容が意図せず変わってしまわないための配慮です。
使っていただく会社のための工夫
顔や声の扱いを、曖昧にしないまま導入できるようにする
作業動画には、当然ながら作業者の顔や声が入ります。ここを説明しないまま導入すると、後から必ず問題になる部分です。そのため、「何が外に出て、何が出ないのか」を隠さず示したうえで使ってもらう方針をとりました。
正直に整理すると、映像については外部に出ないようにはできません。動画から切り出した画像をAIに読ませて手順を組み立てる仕組みである以上、作業者が写った画像は外部のAIサービスへ送られます。この点は仕組み上の前提であり、利用する企業に伝えるべき事実として明示しています(送信先は、こうしたやり取りのデータをAIの学習には使わない方針を示しているサービスを選定しています)。
一方で、音声については選択肢を用意しました。文字起こしを社内のサーバー内だけで完結させる構成に切り替えられるようにしてあり、その場合は音声が外部に出ません。「まずは手軽に試し、本格導入の段階で音声は社内完結にする」といった進め方が可能です。
そのうえで、映り込む方への説明・同意の取得はアップロードする企業側の責任であることを、初回ログイン時の同意画面で明示しています。毎回チェックを求めると形骸化するため、最初に一度、きちんと読んで同意してもらう形にしました。
会社ごとに、データが完全に分かれる
複数の会社が利用することを前提に、ログインの種類を3つに分けています。
| 種類 | 誰が使うか | できること |
|---|---|---|
| 運営者 | サービス提供側 | 会社アカウントの発行、利用上限の設定(各社の中身は見ない) |
| 上長 | 現場を管理する立場の方 | アップロード・編集・削除・公開・社員アカウントの登録 |
| 社員 | 現場のスタッフ | 自社のマニュアル閲覧、チェックリストの印刷 |
見える範囲は「同じ会社に所属しているか」だけで判定する設計にし、他社のデータには一切アクセスできないようにしています。また、社員は閲覧専用のため、現場の方が誤って手順書を削除・変更してしまう心配がありません。
動画や画像は、URLを知っていても見られない
動画と画像は、誰でもアクセスできる場所には置いていません。専用の配信経路を通し、ログインしているか・その会社の所属かを毎回確認したうえでのみ表示されます。共有URLについても、推測が難しい文字列を発行し、公開を停止すればその時点でアクセスできなくなります。
説明されなくても、使い始められるように
現場の言葉で説明が並ぶ画面内ヘルプと、よくある質問のページを用意しました。マニュアルを作るためのマニュアルが必要、という状態にならないようにするためです。
まとめ:まずは「これ、うちでもできますか」からで大丈夫です
動画をアップロードするだけで作業手順書ができる。文章にすると簡単ですが、実際には「どこまでをAIに任せ、どこから人が直すか」「失敗したときに現場を止めないか」「顔や声の扱いをどう説明するか」といった、業務の側の判断が積み重なっています。
私たちは、こうした「やりたいことは決まっているが、どう作ればいいか分からない」段階からのご相談を得意としています。要件が固まっていなくても、現状の困りごとを伺いながら整理するところからお手伝いできます。
このシステム自体は、建設会社の方に無料でお使いいただける形で提供しています。「まず自社の作業で試してみたい」でも、「うちの業務に合わせた仕組みを作れないか」でも構いません。ざっくりしたご相談の段階で、お気軽にお問い合わせください。
よくある質問
Q. 手順書を作るために、撮影し直す必要がありますか?
いいえ、特別な撮り方は必要ありません。スマートフォンで作業の様子を撮っていただければ問題ありません。コツは2つあります。1つは、作業しながら「次に何をするか」を声に出していただくこと。その内容が説明文に反映されるため、手順書の精度が上がります。もう1つは、長い作業は工程ごとに区切って撮ること。1本あたり10分程度を目安にすると、1つの手順書が読みやすい分量に収まります。
Q. すでにある手順書はどうなりますか?
置き換えを強制するものではありません。新しく作る分から本システムを使い、既存の手順書はそのまま残す運用が可能です。書き出したWord形式のファイルを、社内で使っている様式に合わせて整えることもできます。
Q. 自社の言い回しやルールに合わせられますか?
AIが作った手順書は、タイトル・説明文・注意点・使用工具のすべてを画面上から編集できます。社内で使っている呼び方に直したり、自社独自の注意事項を追記したりすることが可能です。それ以上に踏み込んだ作り込み(自社独自の項目を増やす、社内の様式に合わせるなど)が必要な場合は、個別の開発としてご相談を承ります。
Q. 導入すると、現場の運用を変える必要がありますか?
基本的には「これまで口頭で教えていたことを、一度動画に撮る」という変化だけです。新しい端末の導入や、現場での入力作業は発生しません。できあがった手順書は紙に印刷して持ち出せるため、現場ではこれまでどおり紙で確認していただけます。