二度と同じ失敗をしないための、プロが実践するシステムテストケース作成法
皆さんは、開発したソフトウェアの品質に自信がありますか?「バグのないシステムなど存在しない」とはよく言われますが、効果的なテストを実施すれば大幅に品質を向上させることができます。でも、「テストケースをどう作ればいいのか分からない」「効率的にテストを進めるコツを知りたい」という声をよく耳にします。
今日は、現場で実際に役立つテストケース作成のポイントを6つご紹介します。これからテスト設計を任される方も、すでにテスト経験がある方も、明日から使える実践的な内容をお届けします。それでは、さっそく見ていきましょう!
1. テストケースの基本要素を満たす
テストケースには最低限以下の5つの要素を含める必要があります:
- テスト対象:何をテストするのか
- テスト観点(確認内容):何を確認したいのか
- テスト条件:どのような状態でテストを行うのか
- テスト手順:どのような操作を行うのか
- 期待値:どのような結果が得られるべきか
これらの要素をきちんと記載することで、テストの意図が明確になり、誰が実行しても同じ結果を得られるようになります。
例えば「ログイン機能のテスト」と漠然と記述するのではなく、「パスワードを3回間違えた場合のアカウントロック機能」というように具体的に記述することで、テストの目的が明確になります。

2. 網羅性と優先順位の設定
システム開発では、時間とリソースは常に限られています。すべての機能を同じように詳細にテストすることは現実的ではありません。テストケースは重要度を考慮して割り振るべきです。重要度の低い機能ばかりをテストしてしまうと、重要な機能のテストが十分に実施できないという問題が生じます。
テストケースの網羅性を高めるため、以下のようなテスト技法を活用しましょう:
- 同値分割:入力または出力を同じように扱えるグループに分け、それぞれの代表的な値を用いてテストを行う
- 境界値分析:分岐の境界値でテストを行い、エラーを効率的に発見する
- デシジョンテーブル:条件と結果の複雑な組み合わせを整理し、網羅的にテストを行う
例えば、年齢入力フィールドのテストでは、「-1歳」「0歳」「1歳」「17歳」「18歳」「19歳」「120歳」「121歳」などの境界値を選んでテストするほうが、ランダムな年齢値をテストするよりも効率的にバグを発見できます。

3. テストケースの種類と観点
総合テストでは様々な観点からテストを実施する必要があります:
機能面のテスト
機能テストはシステムテストの中でも重要度が高く、クライアントが求める機能が十分搭載されているかを検証します。単に「動作する」だけでなく、「期待通りに動作する」ことを確認するのが目的です。
非機能面のテスト
以下のような非機能要件のテストも必要です:
- セキュリティテスト:情報漏洩や不正アクセスを防ぐために搭載されている機能が仕様書通りに動作しているか検証する
- 性能テスト:データの処理能力や応答速度、時間効率や資源効率といったパフォーマンスを検証し、要求される性能を満たしているか確認する
- 回帰テスト(リグレッションテスト):ソフトウェアの変更によって、既存機能に影響が生じていないかを確認するテスト
機能テストだけに目を向けがちですが、非機能要件のテストも同様に重要です。例えば、セキュリティ対策が不十分なシステムは、どんなに機能が充実していても実用に耐えません。

4. テストケース作成時の具体的な注意点
明確で具体的な記述
テストケースは誰が使っても解釈の違いが出ないように記述する必要があります。誰がそのテストケースを参照しても、全く同じ手順で同じ実行結果となることが望ましいです。
「ログインする」ではなく「ユーザーID『admin』、パスワード『P@ssw0rd』を入力して「ログイン」ボタンをクリックする」というように、具体的に記述しましょう。
トレーサビリティの確保
個々のテストケースについて、ソフトウェアのどの仕様や要件に関連するものか明確化しておくことが必要です。このような関連付けのことを、ソフトウェアテストでは「トレーサビリティ」と言います。
要件定義書やシステム仕様書のどの項目に対応するテストケースなのかを明記することで、テスト漏れを防ぎ、要件がきちんと満たされているかを確認することができます。
テストケースの過不足を防ぐ
テスト計画書やテスト設計の方針など、インプットの内容をよく理解しないままテストケースを作成すると、確認不要なテスト観点のケースを作ってしまったり、必要なテスト対象を見落としたりするなど、テストケースの過不足が起きる恐れがあります。
テスト設計の前に、要件をしっかり理解する時間を確保しましょう。「急がば回れ」の精神で、要件の理解に時間をかけた方が結果的に効率的なテストができます。
5. 効率的なテスト実施のためのポイント
ランダムテストなど、論理性は低いが潜在的なバグを発見するための追加テスト手法も検討する価値があります。特にセキュリティの脆弱性発見や納品前の確認などの特殊な状況では有効です。
テストの実行効率を高めるためには、テストケースの書き方が重要です。書き方が粗いため実行手順がよくわからない、確認項目が曖昧で判断に迷うなど、このような状況が発生すると一気にテスト実行の効率が下がります。
テスト実施者の目線に立って、理解しやすいテストケースを作成することが、効率的なテスト実施につながります。「これを実行するとどうなるんだろう?」と実施者に考えさせるようなテストケースは避けましょう。
6. テスト環境と準備
仕様書や手順書の作成が完了したら、いきなりテストに入るのではなく、テストを行うための環境やデータを準備する必要があります。
- テスト環境の構築:テスト対象のシステムが動作する環境を整える
- テストデータの準備:テストに必要なデータを用意する
- ツールの準備:テスト実行や結果確認に必要なツールを準備する
事前準備が不足していると、テスト中に「この機能をテストするためのデータがない」「このツールがないとテストできない」といった状況に陥り、テスト効率が大幅に低下します。
まとめ
効果的な総合テストを実施するためには、テストケースの網羅性、優先順位付け、明確な記述、トレーサビリティの確保が重要です。機能面と非機能面の両方をカバーし、重要度に応じたテストケースの割り振りを行いましょう。テストケースの記述は具体的で明確にし、誰が実行しても同じ結果が得られるようにすることが大切です。
テストは単なる作業ではなく、ソフトウェアの品質を保証するための重要な工程です。「テストで見つかるバグは恥ずかしいこと」ではなく、「テストで見つからずにユーザーが見つけるバグこそ恥ずかしい」という意識を持って、テスト設計に取り組みましょう。
皆さんのテスト設計に、この記事がお役に立てば幸いです。明日からのテスト設計が、少しでも効率的で効果的なものになりますように!