はじめに
建設業の日報は、現場では「続かない業務」の代表格です。作業を終えて疲れているところに文章を書く負担が重く、外国人の作業員は日本語で書けず、しかも日報と出面(出勤・人工の記録)を別々に入力する二度手間まである。建設会社の方々に伺うと、必ずこの話が出てきます。
そこで私たちは、建設業向けのAI日報システムを開発しました。作業員がやることは、スマートフォンに向かって今日やったことを一息に話すだけ。AIが話した内容を「午前・午後・段取り・所感」の4項目に整え、本人が確認して提出すると、その日の出面まで自動で記録されます。母語で話せば、上長に届くのは日本語の日報です。
この記事では、開発したシステムの中身と、現場で使い続けてもらうために何に手間をかけたのかをご紹介します。
現場で起きていた課題
書くのが面倒で、日報が途切れる
日報の内容は本人の頭の中にあります。問題は、それを文章にする作業です。作業後に事務所や車の中でスマートフォンを開き、項目ごとに文章を打ち込む。今日は疲れたから明日まとめて、が続くと、そのまま書かれなくなります。上長から見ると「日報が来ない」のではなく「書く負担が重すぎて続かない」のが実態です。
外国人作業員は、そもそも書けない
ベトナムやインドネシアからの作業員が増えている現場では、日本語で日報を書くこと自体が壁になります。話せばある程度伝わるのに、文章となると手が止まる。結果として日報は日本人社員だけが出すものになり、現場の半分の記録が抜け落ちます。
日報と出面、同じことを二度入力している
「今日どの現場で何人工働いたか」は、日報にも書きますし、出面管理にも登録します。中身は同じなのに、画面が別なので二回入力する。掛け持ちの日はさらに増えます。どちらかを忘れると、月末に日報と出面が合わなくなり、上長が突き合わせに追われます。
直したはずの数字が、いつの間にか戻っている
もうひとつ、現場からは見えにくい事故があります。上長が「あの日は早上がりだったから0.5人工に直す」と修正したあと、本人が夕方に日報を書くと、古い認識のまま1.0人工で上書きしてしまう。上長は自分の修正が消えたことに気づけません。こうした「誰も気づかないまま集計が狂う」事故は、単に入力を便利にしただけでは防げません。
開発したシステム

日報を出すまでの流れ
作業員の操作は次のとおりです。
- 作業日・現場・人工を画面で選ぶ(現場は前回の続きが最初から入っている)
- 「今日やったこと」の欄をタップし、スマートフォンのマイク入力で一息に話す
- 「整形する」を押すと、AIが話した内容を4項目に振り分けて書き言葉に整える
- 整形結果を確認し、気になるところがあれば直して提出する
提出した時点で、その日の出面が自動で登録されます。掛け持ちの日は現場ごとに行を足すだけで、出面も現場ごとに作られます。
上長側には、月と社員で絞り込める日報一覧があり、本文の訂正や現場・人工の修正もその画面でできます。月次のCSV出力もあり、これまでのExcel運用にそのままつながります。
導入前と導入後
| 導入前 | 導入後 | |
|---|---|---|
| 日報の入力 | 作業後に項目ごとに文章を打つ | 一息で話すだけ。文章化はAI |
| 外国人作業員 | 日本語で書けず未提出になりがち | 母語で話せば日本語の日報になる |
| 出面の記録 | 日報とは別画面で二重入力 | 日報の提出と同時に自動登録 |
| 上長の確認 | 月末に日報と出面を突き合わせ | 月次一覧で確認、その場で訂正 |
| AIが使えないとき | — | 整形なしでそのまま提出でき、業務は止まらない |
想定される導入効果として、日報の入力時間は1件あたり数分から1分程度へ、出面の二重入力はゼロになる見込みです(※数値は想定値です)。
技術について
システムは広く実績のあるWebの技術で構築し、文章の整形には信頼性の高い生成AIサービスを利用しています。音声認識はスマートフォン標準の機能に任せているため、追加のアプリや機器は不要です。会社ごとにデータを分離し、他社の日報は一切見えない構成にしています。
開発で手間をかけたこと
このシステムで最も時間をかけたのは、AIの機能を増やすことではなく、AIに任せる範囲を決めることでした。
AIに任せるのは「誤りが後から見つかる場所」だけ
AIは便利ですが、間違えます。そこで私たちは、「間違えても読めば分かる場所にはAIを使い、間違えても正しく見えてしまう場所には使わない」という線を引きました。
日報の文章は、おかしければ本人や上長が読んだ時点で気づけます。一方、現場・作業日・人工をAIが話し言葉から推測すると、別の現場に人工が付いても「それらしい数字」として残り、原価が狂ったまま誰も気づけません。だから現場・日付・人工は画面で選び、AIには文章だけを任せる設計にしました。
AIが止まっても、日報は止めない
生成AIは外部のサービスです。障害もあれば、利用上限に達することもあります。日報は毎日の業務なので、AIが止まった日に「日報が出せない」は許されません。整形せずにそのまま提出できる導線を必ず残し、AIが使えない日も日報と出面の記録は通常どおり動くようにしました。
話した原文を必ず残す
整形後の文章だけでなく、本人が話した原文も保存し、誰も書き換えられないようにしています。「日報に変なことが書いてある」と上長が思ったとき、原文を見れば本人の言い間違いなのかAIの整形ミスなのかを切り分けられます。原文がなければ、何が起きたのかは永久に分かりません。
AIの結果は、必ず本人が確認してから確定する
整形結果はそのまま保存されるのではなく、本人が読んで直せる状態で表示され、提出ボタンを押して初めて確定します。手で直した文章をAIが上書きすることもありません。「AIが書いた」ではなく「AIの下書きを本人が確認して出した」日報にすることで、内容の責任が本人に残る形にしています。
現場とお客様のための工夫
覚える操作を増やさない
アプリに独自の音声機能は持たせず、iPhoneやAndroidに最初から入っているマイク入力をそのまま使う設計にしました。作業員が新しく覚える操作はありません。端末のキーボード言語をベトナム語にしておけば、そのままベトナム語で話せます。アプリ側に多言語の設定画面を作る必要もなくなりました。
上長が直した数字を、本人が知らずに戻さない
冒頭で触れた「修正した人工が戻る」事故は、仕組みで防いでいます。本人が日報を開いたとき、その日にすでに登録されている出面があれば、その値を最初から画面に出します。上長が0.5人工に直していれば0.5が表示されるので、本人はそれを見たうえで変えるかどうかを判断できます。
幽霊の出面を残さない
掛け持ちの日に一度提出した日報から現場をひとつ削って出し直したとき、削った現場の出面が残ってしまうと、月次集計に誰も気づかない人工が乗ります。日報が登録した出面は日報の内容と常に一致するように同期し、削った分はきちんと消えるようにしました。
AIの費用に上限を設ける
日報は全社員が毎日使うため、AIの利用回数は他の機能と桁が違います。1件あたりの費用は1円未満に収まるモデルを選び、会社ごとに月の利用上限を設けました。上限に達しても止まるのはAI整形だけで、日報の提出は続けられます。
あえて作らなかったもの
会社ごとの日報様式への対応、承認フロー、未提出アラートは、今回は作っていません。日報の様式は会社ごとに最も個性が出る部分で、最初から作り込むと使われない機能が増え、操作も複雑になります。共通の項目とCSV出力で運用を始め、必要になったところから足していく前提で、拡張しやすい構成だけ残しています。
まとめ
建設業の日報を「話すだけ」にするシステムを開発しました。AIで文章を整えることは出発点にすぎず、実際に手間をかけたのは、AIに何を任せて何を任せないか、AIが止まったときに業務をどう守るか、上長と本人の入力がぶつかったときにどう扱うか、という部分です。
日報・報告書・点検記録など、「現場が書く業務」はどの業種にもあります。同じ考え方で、御社の業務にもAIを組み込むことができます。「うちの場合はどうなるか」という段階のご相談で構いませんので、お気軽にお問い合わせください。
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よくある質問
Q. 建設業以外の日報や報告業務にも応用できますか?
A. できます。「話した内容をAIが項目に整理し、本人が確認して提出すると関連する記録が自動で作られる」という仕組みは、介護記録、点検報告、営業日報など、現場が文章を書く業務に共通して使えます。項目の構成や連動する記録は業務に合わせて設計します。
Q. AIが間違った文章にしたらどうなりますか?
A. 整形結果は提出前に本人が確認・修正でき、上長も後から訂正できます。また本人が話した原文は必ず保存されるため、AIの整形ミスか本人の言い間違いかを後から確認できます。
Q. 既存の出面管理やExcelと連携できますか?
A. 今回のシステムでは出面の記録を内蔵し、月次のCSV出力で既存のExcel運用につなげています。すでにお使いのシステムがある場合は、そちらへ連携する形での開発も可能です。
Q. AIの利用費用はどれくらいかかりますか?
A. 日報1件あたり1円未満で、月に数百件でも数百円程度の見込みです(※数値は想定値です)。会社ごとに月の上限を設定でき、上限に達してもAI整形以外の機能は通常どおり使えます。