開発前の課題
陸上競技の大会は、1/100秒を争う正確さで記録が刻まれます。しかしその運営を支える事務作業のほうは、多くの団体で今も手作業に頼っているのが実情です。
学童向けの陸上競技大会を運営するある団体も、まさにその状態にありました。
情報がファイル単位で散らばっている
大会要項はWord、参加チーム一覧はExcel、変更連絡はメール本文の中──。1つの大会に関する情報が複数のファイルに分かれて保存され、「最新版はどれか」を毎回確認しなければならない状態でした。ファイル名に日付や「最新」「修正版」を付けて管理する、という典型的な運用です。
関係者が多く、役割の境界が曖昧
陸上競技の大会には、運営本部・大会責任者・各参加チームの監督や引率者と、立場の異なる人が同時に関わります。誰がどこまで入力し、誰が承認するのかが明文化されていないため、同じ情報を複数の人が別々に管理する「二重管理」が常態化していました。
入力ミスと確認の手戻り
エントリー内容の修正依頼がメールや電話で届き、それを担当者が手作業でExcelに反映する。この転記工程がある限り、ミスは必ず一定の割合で発生します。結果として、大会直前に「この選手の種目が違う」「学年の記載が間違っている」といった確認の往復が繰り返されていました。
担当者が変わると運営が回らない
運用のルールが担当者の頭の中にしかないため、引き継ぎのたびに混乱が起きます。毎年同じ大会を開催しているのに、ノウハウが組織に蓄積されていかないという構造的な問題を抱えていました。
ご提案・開発アプローチ
私たちがまず着手したのは、機能の提案ではなく**「登場人物と業務フローの整理」**でした。
ステップ1:現状業務の棚卸しヒアリング
「今どのファイルを、誰が、いつ触っているか」を実際の運用に沿って洗い出します。目的は機能一覧を作ることではなく、システム化すべき業務と、あえて紙や口頭で残すべき業務を切り分けることです。すべてをシステムに載せようとすると、かえって現場が使わなくなります。
ステップ2:ロールごとの業務フロー設計
運営管理者・大会責任者・参加チームの3者について、それぞれ「何ができて、何ができないか」を線引きしました。権限設計を最初に固めることが、二重管理をなくす最短ルートだからです。
ステップ3:情報の入力者を「情報を持っている人」に寄せる
従来は参加チームから届いた情報を運営側が代理入力していました。これを、参加チーム自身が直接登録する形に変更。転記という工程そのものをなくすことで、転記ミスを構造的に発生させない設計としています。
ステップ4:UI/UXを「現場基準」で設計
大会運営システムの利用者は、必ずしもPC操作に慣れた人ばかりではありません。引率の保護者やボランティアが操作することも想定し、次の点を重視しました。
- 一覧画面を開けば、今の状況が一目で分かること
- 入力項目を必要最小限に絞ること
- 現在どの段階にあるかが、色や表示で直感的に判別できること
ステップ5:要件定義に時間をかけ、段階的に開発
開発期間は約10か月。大会は「年に数回しかリハーサルができない業務」であり、稼働後に大きな作り直しをするコストが極めて高いため、要件定義の段階で運営側と徹底的に認識を合わせる進め方を選びました。
実装した主な機能
構築した大会運営システムの中核となる機能をご紹介します。
大会情報の登録・管理
大会名・開催日程・会場・実施種目などを大会単位で登録します。毎年繰り返し開催される大会では、過去大会の情報をベースに新しい大会を作成できる構成が効いてきます。
参加チーム・選手情報のオンライン登録
参加チームが自ら、チーム情報と所属選手の情報を登録します。運営側が代理入力する必要がなくなり、選手名や学年の転記ミスがなくなりました。
エントリー受付・審査機能
種目へのエントリーをWeb上で受け付け、運営側が内容を確認して承認します。不備があれば差し戻しを行い、そのやり取りもシステム上に記録として残るため、「言った・言わない」が発生しません。
日程・プログラム管理
種目ごとのタイムテーブルやプログラム情報を管理し、関係者全員が常に同じ情報を参照できる状態を作ります。変更が発生しても、参照先が1つなので周知漏れが起きません。
権限・役割管理
ログインしたユーザーの立場に応じて、表示される画面と操作可能な範囲を制御します。参加チームは自チームの情報のみ、大会責任者は担当大会の全体、運営管理者は全大会というように、見える範囲を明確に分離しました。
ステータス管理
「申込中」「承認済」といった進行状態を明示し、今どの段階にあり、次に誰が動くべきかが一覧上で判別できるようにしています。
お知らせ・通知機能
運営からの連絡事項を対象の関係者へ一斉に届けます。メールを個別に送る運用から脱却し、「連絡が届いていなかった」というトラブルを減らしました。
一覧・検索表示
チーム別・種目別・ステータス別など、複数の切り口で必要な情報にたどり着けるようにしました。「あのチームの状況を確認したい」という日常的な操作が数秒で完結します。
導入による効果
情報の所在が明確になった
最も大きな変化は、最新情報がどこにあるかを迷わなくなったことです。どのファイルが正しいのか確認する時間、そのために連絡を取る時間が、そのまま削減されました。
二重管理と手戻りの解消
参加チーム自身が入力する運用に変えたことで、運営側の転記作業が消滅。ミスに起因する確認の往復も大幅に減り、大会直前の駆け込み対応が目に見えて少なくなりました。
役割分担の明確化
「自分が何をすべきか」がシステム上で可視化されたことで、各担当者が本来の業務に集中できるようになりました。運営本部がすべてを抱え込む体制からの脱却です。
参加チーム側の満足度向上
エントリー状況や承認結果を自分で確認できるようになり、問い合わせ自体が減少しました。運営・参加の双方にとって、ストレスの少ない大会体験につながっています。
運営全体の効率化・時短化
個別の作業改善の積み重ねにより、大会1回あたりの事務工数が大きく圧縮されました。浮いた時間を、競技運営の質を高める活動に振り向けられるようになったことが本質的な価値です。
運営ノウハウが組織に残る
業務フローがシステムに定義されたことで、担当者が交代しても運用が途切れません。属人化の解消は、毎年開催される大会にとって長期的に最も大きなリターンを生みます。
まとめ
大会運営システムと聞くと、記録計測やタイム処理といった競技システムをイメージされる方が多いのですが、実際に運営現場の時間を奪っているのはエントリー管理・情報共有・連絡調整といった事務作業です。
今回の陸上競技大会の事例から得られた要点は、次の3つに集約できます。
- 登場人物を先に整理する — 機能一覧を作る前に「誰が何をするか」を決めることが、成功と失敗の分岐点になります
- 入力を「情報を持っている人」に寄せる — 参加者自身に登録してもらう設計にすれば、転記ミスは構造的に発生しません
- ステータスで次のアクションを示す — 進行状況が見えるだけで、確認のための連絡は劇的に減ります
これらは陸上競技に限らず、サッカー・バスケットボール・水泳・武道など、あらゆる競技団体の大会運営に共通する考え方です。
「毎年同じ苦労を繰り返している」「担当者が変わると運営が回らない」といった課題をお持ちの団体様は、一度業務の棚卸しから見直してみてはいかがでしょうか。大会運営システムは単なる効率化ツールではなく、運営ノウハウを組織に残すための仕組みでもあります。
弊社では、競技団体の実情に合わせた大会運営システムの設計・開発を承っております。まずは現在の運用フローをお聞かせいただくところから、お気軽にご相談ください。