はじめに
クライアント様は、首都圏で賃貸マンションのプロパティマネジメントを手がける不動産管理会社様です。自社で管理を受託している賃貸物件の入居者募集を、取引のある多数の仲介会社に紹介してもらうかたちで進めていらっしゃいます。
そのため、空室が出てから次の入居者が決まるまでの期間をいかに短くするかが、オーナー様への成果に直結する事業構造です。
本案件では、その取引先の仲介会社向けに運営していた会員サイトを対象に、全面的なリプレイスを行いました。
社内の基幹システムから物件データを受け取る連携そのものはすでに整っていたため、弊社が担ったのは、そのデータを掲載する会員サイトと、日々の運用を担う管理画面を新たに作り直すことです。あわせて、旧システムに蓄積されていた物件・建物・エリア・会員の各データを新しい構造へ移行しています。
本記事では、開発前の課題、提案したアプローチ、実装した主な機能を整理してご紹介します。
今回のポイントは、「掲載する文言や連絡先を一つ変えるだけでも開発側への依頼が必要だった」という課題に対し、資料の体裁も、物件ごとの問い合わせ先も、メールの配信対象も、管理画面から扱えるようにしたことです。
開発前の課題
開発前に現場で起きていたことは、大きく次の三つに整理できます。
| 課題 | 現場で起きていたこと |
|---|---|
| 社内向けと取引先向けの情報が分かれていない | 物件資料は自社向けの体裁で固定され、仲介会社にそのまま渡せる版を別に用意できなかった |
| 自動で動いているはずの処理を信用できない | 文言の修正には開発側への依頼が必要で、届かない自動返信を担当者が手作業で補っていた |
| 毎日触る画面に細かな不便が残る | お知らせの入力欄が狭い、記事を複製できない、物件の絞り込み条件が足りないなどが積み重なっていた |
社内で使う情報と、取引先に見せる情報が分かれていなかった
最も大きな課題は、社内で使う情報と、取引先に見せる情報が分かれていなかったことです。物件資料を出力すると自社向けの情報を載せた体裁で固定され、仲介会社にそのまま渡せる版を別に用意することができませんでした。
空室一覧にも社外に出す必要のない項目が残り、問い合わせ先の表示も一律で、物件によって窓口が異なる実態を反映できません。会員向けのトップページにも自社の連絡先や営業時間がそのまま出ていました。
誰に何を見せるかという線引きが、仕組みの側に用意されていない状態だったわけです。
自動で動いているはずの処理を、人が引き受け直していた
もう一つは、自動で動いているはずの処理を信用できず、人が引き受け直していたことです。組織の変更にともなって変わった案内先が画面に残り続け、文言を一つ直すにも開発側への依頼が必要でした。
パスワード再発行の自動返信が届かないことがあり、担当者が会員の登録を手作業で代行していた時期もあります。
メールの一斉配信でも、受け取りを希望していない会員に届いてしまう、エラーで戻ってきたアドレスを会員情報から探しても見つからないといったことが起きており、送った結果を追う手立てがありませんでした。自動化されているはずの領域ほど、実際には人の手が入っていたわけです。
毎日触る画面に、細かな不便が積み重なっていた
日々の運用でも、細かな不便が積み重なっていました。
- お知らせの本文を書く欄が狭く、長い記事や画像を扱いにくい
- 過去の記事を下敷きにしたいのに、複製する手立てがない
- 物件の絞り込み条件が実際の探し方に足りていない
いずれも単独では小さな話ですが、毎日触る画面では負担になります。利用者ごとの役割を整理し、掲載する情報から資料の出力、会員への連絡までを一連の流れとして扱える設計が求められました。
ご提案・開発アプローチ
進め方と設計方針として決めたことを、狙いとあわせて整理すると次のようになります。
| 決めたこと | 狙い |
|---|---|
| すでに動いているデータ連携には手を触れない | 安定して稼働している基幹システム側を作り替えず、社内業務への影響を避ける |
| 受け取る側だけを引き受け、10分間隔で取り込む | 新規・更新・掲載終了を突き合わせで判定し、掲載終了分を自動でサイトから外す |
| 社外に出るものをすべて設定として切り出す | 文言や連絡先の変更を、開発側への依頼なしに担当者の側で完結させる |
| 80項目を超える物件属性を安易に整理しない | 旧システムの情報をそのまま新しいテーブルへ引き継ぐ |
| 旧サイトのURLを新しいアドレスへ恒久的に転送 | 取引先がブックマークしていた導線をそのまま引き継ぐ |
要望は「なぜそうしたいのか」まで含めて一覧にする
要件は、クライアント様側で挙がった改善要望を一覧に集約し、旧サイトのどの画面に対する指摘なのかを紐づけたうえで、優先順位をつけて順に潰していく進め方を取りました。
一覧には要望の内容だけでなく、なぜそうしたいのかという背景まで書き添えていただいています。画面の指示をそのまま実装に落とすのではなく、その背景から本当に必要な仕組みを判断する材料にするためです。【要確認:開発体制(弊社◯名、デザイン担当◯名、クライアント様側◯名)をこの段落の末尾に追記します】
すでに動いているデータ連携には手を触れない
設計にあたって最初に決めたのは、すでに動いているデータ連携には手を触れないということです。基幹システムから物件データが定期的に送られてくる仕組みは安定して稼働しており、ここを作り替えれば社内の業務にまで影響が及びます。
そこで弊社は受け取る側だけを引き受け、送られてきたデータを10分間隔で取り込む処理を新たに用意しました。取り込みの際には、新しく追加された物件、内容が変わった物件、掲載を終えた物件を突き合わせによって判定し、掲載を終えた分は自動的にサイトから外れるようにしています。
処理が重なった場合に備えた排他制御も入れ、取りこぼしが起きない構造にしました。
社外に出るものは、すべて設定として切り出す
そのうえで中心に据えたのが、社外に出るものをすべて設定として切り出すという考え方です。物件資料は自社向けと取引先向けの二種類を出し分けられるようにし、空室一覧に添える文面は管理画面から書き換えられるようにしました。
物件ごとに異なる問い合わせ先も、画面と資料の双方が同じ定義を参照する形に整えています。文言や連絡先が変わるたびに開発側へ依頼が発生していた状態を、担当者の側で完結させるための設計です。
旧システムの資産は、構造もURLもそのまま引き継ぐ
データ構造については、設備や構造、間取りの内訳、契約条件など80項目を超える物件属性を安易に整理せず、新しいテーブルへ引き継ぎました。区分値を扱う箇所は列挙型として定義しています。
旧サイトのURLは新しいアドレスへ恒久的に転送し、取引先がブックマークしていた導線をそのまま引き継げるようにしています。
実装した主な機能
実装した機能を、仲介会社が使う会員サイト側と、運用を担う管理画面側に分けて整理します。
仲介会社(会員)が使う機能
- 仲介会社の会員登録・メールアドレス確認と、管理者による承認を経た利用開始
- 会社情報・宅建免許番号・加盟団体・手数料率などを会員自身が更新できるプロフィール管理
- エリア・沿線・駅からの徒歩分数・賃料・面積・ペット可などから絞り込める空室検索
- 物件詳細ページと、社外向けの体裁を選べる物件資料PDFの出力・複数物件の一括ダウンロード
- 空室一覧のPDF・Excel出力(添える文面は管理画面から変更可能)
- 提携先ごとの申込書類など、各種書類のダウンロード
- 会員からの問い合わせフォームと、担当部署への自動通知
運用側(管理画面)で扱える機能
- 物件ごとに異なる問い合わせ先を設定として持たせ、画面と資料の双方へ反映する仕組み
- お知らせ記事の投稿・複製と、公開範囲を切り替えられるキャンペーンバナー
- 受信を希望した会員だけに届くメール一斉配信、配信先一覧の確認・再送と送信記録
- 物件・建物の登録情報の管理と掲載可否の切り替え
- 会員情報のCSV一括登録・書き出し、資料の取得履歴
基幹システムとの連携
基幹システムから届くデータは10分ごとに取り込み、新規・更新・掲載終了を判定する仕組みとしています。
導入による効果
開発前と導入後で、日々の運用がどう変わったかを整理すると次のとおりです。
| 項目 | 開発前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 取引先に渡す物件資料 | 自社向けの体裁で固定 | 取引先向けの体裁を選んで出力できる |
| 空室一覧の添え書き・問い合わせ先 | 変更のたびに開発側へ依頼 | 管理画面から変更し、その場で反映できる |
| 会員登録・パスワード再発行 | 連絡が届かず、担当者が手作業で代行 | 連絡が確実に届き、手作業の代行が不要に |
| メールの一斉配信 | 受け取りを希望していない会員にも届く | 受信を希望した会員だけに届く |
| 送信結果・資料の取得状況 | 追う手立てがない | 送信の結果と取得履歴が記録として残る |
社外に出る資料と文面を、担当者が管理画面から整えられる
社外に出る資料や文面を、担当者が管理画面から整えられるようになりました。取引先に渡す物件資料は自社向けとは別の体裁で出力でき、空室一覧の添え書きや物件ごとの問い合わせ先も、変更が生じたその場で反映できます。
これまで開発側への依頼と反映待ちが発生していた種類の作業が、運用の内側で完結するようになりました。
あわせて、会員登録やパスワード再発行の連絡が確実に届くようになったことで、管理者が会員の登録を手作業で代行する必要もなくなっています。【要確認:導入後に実際に変わった点。数字があればそのまま反映します】
送った結果も、取得された資料も、記録として残る
管理者側では、これまで見えていなかった情報が記録として残るようになりました。メールは受信を希望した会員だけに届き、送信の結果も追える状態です。
どの会員がどの物件の資料を取得したかも記録されるため、反響のある物件や、活発に動いている取引先を把握したうえで営業活動を組み立てられます。
掲載の状況と取引先の反応が同じ場所に集まることで、運用後の改善にもつなげやすい仕組みです。
まとめ
更新のたびの開発依頼をなくした不動産業者向けサイトの開発事例では、次の三つの仕組みを中心に、業務に合わせた形を整えたことがポイントです。
- 取引先向けの体裁を選べる資料の出力
- 設定として切り出した文面と問い合わせ先
- 受信希望に沿ったメール配信
古くなったシステムを作り替えるとき、機能を足すことよりも、誰が何を変えられるのかを引き直すことのほうが効く場面があります。
すでに動いている連携には手を触れず、運用の側に権限を戻すという判断が、今回はその答えでした。今後は蓄積されていく取得履歴を活かし、反響の傾向に応じた情報提供へと広げていける土台ができています。