「中古の産業設備を売りたい・撤去したい」製造工場と、中古設備を扱う販売事業者をWeb上でつなぐ、BtoB向けの産業設備マッチングプラットフォームを新規開発しました。
工場が案件を登録し、運営が内容を審査して公開、販売事業者が見積を提案し、工場が相手を選んで商談を確定させる——という一連の商流を、すべてシステム上で完結させています。
本システムの大きな特徴は、製造工場・販売事業者・運営管理者という立場の異なる3者が、それぞれ専用の管理画面を持つマルチテナント型の構成である点です。3者は見えるデータも、行える操作もまったく異なります。
本記事では、開発の背景にある課題、業務フローの設計、実装した機能、そして「立場ごとに見えるものが違うシステム」をどう安全に作ったかという技術的な工夫までをご紹介します。
お客様について
産業用生産設備の二次流通を手がける事業者様です。
対象となるのは、ポンプ、混練機、タンク、熱交換機、乾燥機、包装機、充填機、コンベアといった工場向けの生産設備です。
製造工場と中古設備販売事業者の間に立ち、商談が成立した際にシステム利用料をいただくビジネスモデルで、プラットフォームを運営されています。
開発前の課題
本プラットフォームが対象とする中古産業設備の取引には、業界特有の難しさがあります。以下は、開発時にうかがった業務背景をもとに整理したものです。
取引が人脈に依存し、声をかける先が見えにくい
中古産業設備の売買は、業者間の人脈や電話・FAXによる相対取引になりやすい領域です。工場側からすると、そもそも「誰に声をかければよいのか」が見えにくいという課題が背景にあります。
設備のスペックだけでは見積が成立しない
産業設備の撤去は、単なる物品の売買ではありません。撤去工事・搬出・電気工事や配管工事といった付帯工事までを含む商談になります。
そのため、メーカーや品番といった設備そのものの情報に加えて、搬出経路やレイアウト、工事可能期間といった現場の施工条件を伝えなければ、そもそも見積が出せません。
口頭やメールでのやり取りでは、こうした情報が抜け落ちやすくなります。
同じ説明を何社にも繰り返すことになる
工場が個別に複数の業者へ声をかける場合、同じ設備の説明、同じ現場条件の説明を、相手の数だけ繰り返す必要があります。
そこで、案件情報を構造化されたフォームで一度登録すれば、条件に合う複数の販売事業者から提案が集まる——という仕組みを目指しました。
ご提案したシステム
弊社がご提案したのは、製造工場・販売事業者・運営管理者の3者がそれぞれ専用の管理画面を持つ、マルチテナント型のマッチングプラットフォームです。
扱う案件は、工場側を起点とする2種類です。
- 購入案件:工場が中古設備を調達したい案件(予算、必要な能力、メーカー、品番などを提示)
- 撤去案件:工場が保有設備を売却・撤去したい案件(メーカー、品番、年式、寸法、重量、稼働年数などを提示)
いずれの案件にも、設備写真、撤去対象の図面、設置場所のレイアウト図を複数枚アップロードでき、電気工事・配管工事などの付帯工事の要否も指定できます。見積に必要な情報を、登録の時点で構造化して集めることを重視しました。
また、販売事業者のアカウントは自己登録できない設計にしています。
誰でも登録できると工場側に無関係な提案が届いてしまうため、運営の審査を通した事業者だけが案件を閲覧・提案できる仕組みとしました。提案する側の質を運営が担保するための設計です。
業務フローの設計|登録・審査・提案・成約の4ステップ
商流をそのままシステムに落とし込むため、案件が成約に至るまでを4つのステップに整理しました。
- 案件登録(製造工場)|購入案件または撤去案件を、種別ごとの専用フォームから登録します。設備スペック、希望納期、工事可能期間、設備写真、図面、レイアウト図、付帯工事の指定などを入力します。この時点ではまだ非公開です。
- 審査・公開(管理者)|運営が内容を確認し、「承認」して初めて販売事業者の案件一覧に表示されます。必要であれば管理者が案件内容を代理で修正でき、公開後に「承認取消」で非公開へ戻すこともできます。
- 見積提案(販売事業者)|公開済みの案件を検索・閲覧し、対応可能な期間、金額、自社PR、備考を添えて「申請」します。
- 承認と商談確定(製造工場)|届いた提案を承認待ち一覧で比較し、承認または却下します。一度却下した提案を復活させることも可能です。承認すると販売事業者へ通知メールが自動送信され、同時に「マッチング(商談)」が生成されます。工場はマッチング一覧で、最終的に確定またはキャンセルを選びます。
管理者は、すべてのマッチングを横断で監視できます。運用フォローが必要な場面では、ステータスを直接変更することも可能にしました。
3つのステータスを分けて管理する
「案件」「申請」「マッチング」の3つが、それぞれ独立したステータスを持ちます。
| 対象 | ステータス | 意味 | 変更できる人 |
|---|---|---|---|
| 案件 | 未承認 | 登録直後。販売事業者からは見えない | — |
| 案件 | 承認済 | 公開中。販売事業者の一覧に表示される | 管理者 |
| 申請 | 承認待ち | 販売事業者が提案を出した状態 | — |
| 申請 | 承認済 | 工場が受け入れた。同時にマッチングが生成される | 製造工場 |
| 申請 | 却下 | 工場が見送った(取り消して承認待ちに戻せる) | 製造工場 |
| マッチング | 見積もり中 | 商談が進行中 | — |
| マッチング | 確定済み | 商談成立 | 製造工場/管理者 |
| マッチング | キャンセル済み | 商談不成立 | 製造工場/管理者 |
「提案の受理」と「商談の成立」を分ける
設計上、最も重要な判断がここでした。販売事業者からの「申請」と、成立した「マッチング」を、別々のデータとして管理しています。
承認=即成約という設計にしてしまうと、工場は最初に届いた良さそうな提案を受けた時点で、商談を確定させざるを得なくなります。
両者を分けたことで、工場は複数の提案を受理し、比較検討したうえで最終的に1社と確定できるようになりました。
プロフィール未登録では先へ進めない
マッチングの精度は、販売事業者の「対応可能エリア」「取扱設備分野」や、工場の「業種」「所在地」といったプロフィール情報に依存します。これらを任意入力にすると、マッチング機能そのものが成立しません。
そこで、どちらの役割も、プロフィールが未登録のままでは他の画面に一切進めない仕組みにしました。ログイン状態のチェックとは別に専用の判定処理を挟み、未入力であれば自動的に入力画面へ戻します。
実装した主な機能
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| 案件登録(購入・撤去) | 種別ごとの専用フォームで、設備スペック・希望納期・工事条件を登録する機能 |
| ファイル添付 | 設備写真、撤去対象の図面、設置場所のレイアウト図を複数枚アップロードする機能 |
| 案件の審査・公開管理 | 管理者が案件を承認・承認取消し、必要に応じて代理編集する機能 |
| 案件検索 | 販売事業者が公開済みの案件を条件で絞り込んで閲覧する機能 |
| 見積提案(申請) | 販売事業者が対応可能期間・金額・自社PRを添えて提案する機能 |
| 提案の承認・却下 | 工場が届いた提案を比較し、承認・却下・却下取り消しを行う機能 |
| マッチング管理 | 成立した商談の確定・キャンセルを管理する機能 |
| ダッシュボード | 役割ごとに案件数・承認待ち件数・商談件数を集計表示する機能 |
| アカウント管理 | 管理者が事業者アカウントを発行・停止・復元する機能 |
| マスタ管理 | 設備カテゴリを運営自身が追加・並べ替えする機能 |
| 問い合わせ | 工場・事業者から運営へ問い合わせを送信し、管理画面で確認する機能 |
| メール通知 | 承認通知や各種案内を自動送信する機能 |
役割ごとの画面構成
| 役割 | 主な画面 |
|---|---|
| 製造工場 | ホーム(ダッシュボード)/案件一覧/案件登録(購入)/案件登録(撤去)/承認待ち一覧/マッチング一覧/プロフィール編集/問い合わせ |
| 販売事業者 | ホーム(ダッシュボード)/案件一覧(公開済みのみ)/申請一覧/マッチング一覧/プロフィール編集(対応エリア・取扱分野を含む)/問い合わせ |
| 管理者 | ホーム(ダッシュボード)/製造工場一覧(案件の承認・代理編集を含む)/中古設備販売事業者一覧/マッチング一覧/検索カテゴリー一覧/問い合わせ一覧 |
設備カテゴリは運営自身で増やせる
業種カテゴリ(約10種)、設備カテゴリ(約28種)、都道府県をマスタデータとして持っています。
このうち設備カテゴリは、管理画面から運営が追加・並べ替えできるようにしました。産業設備の分類は事業の成長とともに増えていくため、開発者を介さずに運営側で運用できることを重視しています。
導入後に期待できる効果
一度の登録で複数社から提案が集まる
工場は案件をフォームから一度登録するだけで、条件に合う複数の販売事業者から提案を受け取れます。業者ごとに同じ説明を繰り返す必要がなくなります。
見積に必要な現場情報が最初から揃う
設備スペックだけでなく、図面・レイアウト図・工事可能期間・付帯工事の要否までを構造化されたフォームで収集するため、提案する側が判断に必要な情報を最初から確認できます。やり取りの往復を減らしやすくなります。
提案の質を運営が担保できる
販売事業者のアカウントを運営発行としたことで、審査を通した事業者だけが案件を閲覧・提案します。工場側に無関係な提案が届きにくい設計です。
商談の進捗を運営が横断で把握できる
案件・申請・マッチングのステータスがシステム上に残るため、運営はどの商談がどの段階にあるかを一覧で確認できます。フォローが必要な案件を見つけやすくなり、成約時のシステム利用料の徴収管理にもつながります。
事業の成長に合わせて分類を増やせる
設備カテゴリを管理画面から追加・並べ替えできるため、扱う設備領域が広がっても、開発を依頼することなく運営側で対応できます。
まとめ
本事例では、製造工場・中古設備販売事業者・運営管理者の3者をつなぐ、BtoBの産業設備マッチングプラットフォームを新規開発しました。
ポイントは大きく3つです。
- 登録・審査・提案・成約という実際の商流をそのままステータス設計に落とし込んだこと
- 役割ごとにテーブルと認証を分離し、権限の事故を構造で防いだこと
- 「似ているけれど違う」2種類の案件を、共通フローを2重実装せずに1つのシステムへ収めたこと
マッチングプラットフォームに限らず、「立場によって見えるものが違う」「似ているけれど少しずつ違う申込がある」「担当者の頭の中にしかない業務手順がある」といった要件は、多くの業務システムに共通します。
こうした要件を、後から破綻しない形でどう設計するかが、システムの寿命を大きく左右します。
弊社では、既存の業務フローや商流に合わせて、業務システム・マッチングプラットフォームをオーダーメイドで開発しています。
「自社の商流をそのままシステムにしたい」
「立場ごとに権限が異なるプラットフォームを作りたい」
「紙や電話でのやり取りをWeb上で完結させたい」
といったお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。