「システムを導入したいけど、社内にITに詳しい人がいない」――これは、中小企業の経営者が最も多く口にする悩みのひとつです。
IPA(情報処理推進機構)の「DX白書2023」によると、従業員100名以下の中小企業のうち、IT専門の部署や担当者を置いている企業は2割にも満たないという調査結果があります。
多くの中小企業にとって「IT担当がいない」のは例外ではなく、むしろ標準的な状態です。
しかし、結論から言えば、社内にエンジニアがいなくてもシステム導入は可能です。
実際に、IT担当がいない状態からシステムを導入し、業務効率化を実現した中小企業は数多くあります。
本記事では、IT人材がいない企業がどのようにDXを進めればよいか、実践的な戦略を解説します。
IT担当がいない企業が陥りがちな3つのパターン
パターン①:「DXはうちにはまだ早い」と先送りにする
「DX」という言葉の大きさに尻込みして、「うちの規模ではまだ早い」と判断するケースです。
しかし、DXは必ずしも大規模な投資を意味しません。
「紙でやっていた申請をデジタルにする」
「Excelで管理していた顧客情報をシステム化する」
「手作業で行っていた集計を自動化する」
こういった小さな一歩もDXです。
むしろ、中小企業こそ「小さなDX」の効果が大きいと言えます。なぜなら、一人の社員の業務時間が削減される影響が、組織全体に占める割合が大きいからです。
パターン②:「ITに詳しい人を採用してから」と待つ
IT人材の採用は競争が激しく、中小企業が採用するのは容易ではありません。
経済産業省の試算では、2030年にはIT人材が最大79万人不足するとされています。
「採用できてから」と待っていると、いつまでもDXが進まないままです。
社内にエンジニアがいなくても、外部のパートナーと組むことでDXは実現できます。
大切なのは「ITの専門知識を持つこと」ではなく、「自社の業務の困りごとを伝えられること」です。
パターン③:IT担当が退職して「誰も分からない」状態
以前はITに詳しい担当者がいたが退職し、残されたメンバーが「ITのことは右も左も分からない」という状態。
これは多くの中小企業で起きており、まさに属人化の典型例です。
この状態は放置すればするほど深刻化します。
既存のシステムやツールの更新が止まり、セキュリティリスクが高まり、業務効率が徐々に低下していきます。
早めに外部のパートナーに相談することが重要です。
IT担当がいない企業のDX戦略3ステップ
ステップ1:「何に困っているか」を言葉にする
技術的な知識は不要です。
「売上の数字がすぐに見えない」
「商品登録をする人がいなくなった」
「毎日の消込作業に時間がかかる」
「店舗ごとの在庫を一括で確認したい」
こういった日常の困りごとをそのまま伝えることが、最も重要な「要件定義」になります。
「要件定義」というと難しく聞こえますが、要は「何をどう改善したいか」を伝えることです。技術的な解決策を考えるのは、開発会社の仕事です。
ステップ2:「伴走型」のパートナーを選ぶ
「何を作りたいか決まってから相談する」のではなく、「困っていることを伝えたら、一緒に解決策を考えてくれる」タイプの開発会社を選ぶことが大切です。
見分けるポイントは、以下のような点です。
- 専門用語を使わず、わかりやすい言葉で説明してくれるか
- 初回の相談時点で、こちらの業務を理解しようとしてくれるか
- 見積もりの内訳が明瞭で、「何にいくらかかるか」が分かるか
- オンラインだけでなく、対面での打ち合わせにも対応してくれるか
- 開発後の保守やサポート体制が整っているか
特に重要なのは「対面でのコミュニケーション」です。ITに詳しくない場合、画面越しだけでは伝わりにくいニュアンスも、対面なら伝えやすくなります。
ステップ3:小さく始めて「効果を実感」してから広げる
最初から大規模なシステムを入れる必要はありません。
「まずはこの業務だけ」と対象を絞って小さなシステムを導入し、「便利になった」という実感を得てから、対象業務を広げていくのが理想的です。
小さく始めることのメリットは、費用を抑えられるだけではありません。
現場の社員が「システムって便利だ」と体感することで、次のDXへの抵抗が大幅に減ります。
最初の成功体験が、社内のDX推進の原動力になるのです。
IT担当者がいなくてもDXを進めている企業の事例
以下では「IT担当がいない」「I Tがよくわからない」といった悩みを持った企業のDX化についてご紹介をします。
事例①:IT担当がいない飲食業でDX化を実現
複数店舗を運営する飲食業の企業では、IT担当者の退職により、商品登録や売上管理などIT全般が滞るようになっていました。
ITのことは「右も左もわからない」状態でしたが、システム開発会社に相談したところ、「DX化についてわからない中で丁寧に説明してもらい」、週に1度の対面打ち合わせで問題解決も早く進みました。
システム導入後は、複数店舗の売上を一元管理できるようになり、マーケティング施策にも取り組めるようになりました。対面での打ち合わせによる安心感と、わかりやすい説明が、IT知識がなくてもDXを進められた要因です。
▶ 飲食業DXの事例詳細はこちら(焼肉あいかわ様)

事例②:エンジニア不在でもマッチングサービスを構築
キッチンカーのポータルサイトを運営する企業では、社内にエンジニアがおらず、システム開発については全くの素人だったといいます。それでも「やりたいことを伝えて形にしてもらう」というスタンスで開発会社と組み、マッチング機能を持つシステムを構築しました。
無理なことを伝えたこともあったそうですが、何かしらの形で提案してもらえたのがよかったとのこと。開発後の保守対応では、週に1度エンジニアが直接訪問し、保守作業を行っています。目の前にいてもらえると説明もしやすく、ありがたいと評価されています。
結果として、登録台数は300台から2,500台へと8倍以上に増加。人員は数名増えた程度で、人件費を抑えながら利益が伸びる結果になりました。
▶ キッチンカーマッチングの事例詳細

IT担当を「採用する」vs「外部に委託する」の比較
IT担当の社内採用と外部委託、どちらが良いかは企業の状況によりますが、中小企業の場合は外部委託の方が現実的なケースが多いです。
社内採用のメリット:社内の業務に精通した人材を育成できる。日常的な小さな対応がしやすい。
社内採用のデメリット:採用が難しい(IT人材の給与相場は高い)。一人採用しても属人化する。退職リスクがある。
外部委託のメリット:専門知識を持つチームに任せられる。一人の退職で止まらない。保守体制が整っている。
外部委託のデメリット:社内の業務理解に時間がかかる。コミュニケーションコストがある。
ポイントは、外部委託であっても「自社の業務を理解しようとしてくれるパートナー」を選ぶこと。定期的な対面打ち合わせやSlackなどでの日常的なやり取りがあれば、外部でも十分に自社の業務を理解してもらえます。
まとめ
「社内にIT担当がいない」ことは、DXをあきらめる理由にはなりません。大切なのは、「何に困っているか」を自分たちの言葉で伝えられることと、それを一緒に解決してくれるパートナーを見つけることです。
ITの専門知識は必要ありません。必要なのは、「この業務をもっと楽にしたい」「この作業をなくしたい」という、日常の困りごとへの気づきだけです。