「今の保守会社の対応が遅い」「保守費用が高い気がする」「開発した会社と連絡が取れなくなった」。
こうした理由でシステム保守の引き継ぎを検討する会社は少なくありません。しかし実際に動き出すと、「そもそも何を用意すればいいのか」「資料がないけど引き継げるのか」で止まってしまいがちです。
この記事では、他社が開発したシステムを別の会社へ引継ぐ際に必要な準備、資料が揃っていない場合の進め方、引き継ぎ先の選び方までを整理します。
システム保守の引き継ぎとは
システム保守の引き継ぎとは、現在システムを保守している会社から、別の会社へ運用・改修の担当を引き渡すことを指します。
社内の担当者間で行う引継ぎと違い、会社をまたぐ場合は「相手が協力してくれるとは限らない」という前提で進める必要があります。
そのため、引き継ぎの成否を分けるのは技術力よりも事前にどれだけ情報と権利を確保できたかです。
引き継ぎが必要になる4つのタイミング
| きっかけ | よくある状況 | 緊急度 |
|---|---|---|
| 開発会社の廃業・連絡不通 | ある日突然連絡が取れなくなる。ソースコードも資料も手元にない | 高 |
| 保守費用の高騰 | 毎年値上げされるが根拠の説明がない | 中 |
| 対応品質への不満 | 障害対応が遅い。改修を依頼しても着手されない | 中 |
| 担当エンジニアの離職 | 相手側で仕様を知る人がいなくなった | 高 |
このうち「廃業・連絡不通」と「担当者の離職」は、時間が経つほど情報が失われて引き継ぎが難しくなるため、判明した時点ですぐ動く必要があります。
なお、そもそも他社に乗り換えられない構造になっている場合は、引き継ぎ以前の問題としてベンダーロックインとは?原因・事例・脱却する4つの方法もあわせてご確認ください。
引き継ぎ前に揃えるべき5つの資料
引継ぎを打診する前に、次の5点が手元にあるかを確認してください。
| 資料 | 重要度 | ない場合に起きること |
|---|---|---|
| ソースコード一式 | 必須 | 改修が一切できない。作り直しになる |
| サーバー・ドメインの管理権限 | 必須 | 公開停止やドメイン失効のリスクが残る |
| データベースの構造とデータ | 必須 | データを引き継げず業務が止まる |
| 設計書・ER図 | 重要 | 解析に時間がかかり初期費用が膨らむ |
| 外部サービスのアカウント情報 | 重要 | 決済やメール配信が突然止まる |
最優先はサーバーとドメインの管理権限です。ここを押さえていないと、交渉が決裂した瞬間にサービスそのものを止められる可能性が残ります。
データが独自形式で取り出せない場合の対処はシステム移行したいのにデータが取り出せない!データ抽出独占の罠と脱出法で解説しています。
資料がなくても引き継げるのか|実際の事例
結論から言えば、ソースコードも設計書もない状態からでも引き継ぎは可能です。当社が実際に対応した金属加工販売業のお客様の事例をご紹介します。
ご相談時の状況
- 開発の途中で開発会社と突然連絡が取れなくなった
- 納品されるはずのシステムは完成しておらず、動くものが手元にない
- ソースコードはなく、設計資料も一部しか残っていない
- 受注・請求・入金消込は、Excelと手作業のまま残っていた
どう引き継いだか
動くシステムもコードもないため、残っていた設計資料と、現場で実際に使われているExcel・帳票・請求書を突き合わせて業務ルールを組み立て直すところから始めました。
この案件で最も苦労したのは「答え合わせの相手も、動く現物もいない」という点です。前任の開発会社には連絡が取れず、正解を確認する術がありません。
そこで、現場が実際に発行している請求書や見積書を「正解データ」とみなし、新システムで同じ入力をして1円単位で金額が一致するかを地道に検証していきました。
担当者の頭の中にあった鋼材の重量計算や材質エキストラも、商品マスタに持たせて誰が触っても同じ結果になる仕組みに落とし込んでいます。
詳細は開発会社が無くなった…そんな時の対処法|引き継ぎ新規開発で受注管理を再構築でご覧いただけます。
システム引継ぎの進め方4ステップ
- 現状の棚卸し
契約書でソースコードの権利と解約条件を確認し、手元にある資料とアカウントを洗い出します。相手に伝える前に行ってください。 - 引き継ぎ先の選定と初期調査
候補となる会社に現状を見てもらい、引き継げるかどうかと初期費用の見積もりを取ります。 - 現ベンダーへの通知と資料受領
解約を伝え、ソースコードとデータの引き渡しを依頼します。契約に協力義務の記載があれば根拠として示します。 - 並行期間を設けた移管
いきなり切り替えず、新旧が並行する期間を1〜3ヶ月設けると障害時に戻せます。
順番が重要です。先に解約を伝えてしまうと、資料の受け渡しに協力してもらえなくなる場合があります。棚卸しと引き継ぎ先の確保を先に済ませてください。
引き継ぎ先を選ぶときの5つの確認ポイント
- 他社が作ったシステムの引き継ぎ実績があるか
新規開発と引き継ぎはまったく別の仕事です。既存コードを読み解いた経験を確認してください。 - 資料がない前提で見積もれるか
「設計書がないと対応できません」と即答する会社は、この局面では力になりません。 - 初期調査を分けて依頼できるか
いきなり全体を契約せず、調査だけ先に依頼できるとリスクを抑えられます。 - 使用している技術が標準的か
次の引き継ぎで同じ問題を繰り返さないため、独自技術に依存しない会社を選びます。 - 対応範囲と時間がSLAで明示されるか
障害時の連絡手段と対応時間帯を契約前に確認します。
確認すべきSLAの具体項目はWebシステム保守の外注先選び|契約前に確認すべき5つのSLAにまとめています。
引き継ぎ後の保守費用の目安
引き継ぎ後に発生する月額保守費用の相場は、システムの規模によって次のように変わります。
| 規模 | 月額費用 | 年額換算 |
|---|---|---|
| 小規模 | 3万〜10万円 | 36万〜120万円 |
| 中規模 | 10万〜30万円 | 120万〜360万円 |
| 大規模 | 30万〜100万円以上 | 360万〜1,200万円以上 |
年間の保守費用は開発費の20%前後が一般的な参考値です。これを大きく上回っている場合は、引き継ぎによって適正化できる余地があります。
なお引き継ぎ時には、既存システムを解析する初期調査費用が別途かかります。資料の残り具合で大きく変わるため、個別の見積もりが必要です。
内訳の詳細はWebシステム保守費用の相場|中小企業向け料金の目安と内訳、削減の考え方はシステム保守費用の相場と内訳|料金の根拠・削減方法まで解説をご覧ください。
よくある質問
ソースコードを渡してもらえない場合はどうすればよいですか?
まず契約書の著作権条項を確認します。権利が相手にある場合でも、使用許諾の範囲で引き渡しを交渉できることがあります。どうしても入手できない場合は、現行システムの画面と業務から仕様を起こして作り直す方法があります。
今のベンダーに知られずに検討できますか?
現状把握と他社への相談までは、契約に守秘義務違反がなければ問題ありません。むしろ引き継ぎ先を確保してから通知するほうが安全です。
引き継ぎにはどのくらい期間がかかりますか?
資料が揃っていれば1〜2ヶ月、ソースコードや設計書がない場合は解析からになるため数ヶ月を要します。並行稼働の期間も別途見込んでください。
業務を止めずに引継ぎできますか?
可能です。機能ごとに区切って段階的に切り替える進め方であれば、現場はそれまでの運用を続けながら移行できます。
まとめ
システム保守の引き継ぎで最も重要なのは、現ベンダーに伝える前に、資料と権限の棚卸しを済ませておくことです。順番を誤ると、必要な情報を受け取れないまま関係が終わってしまいます。
そして、ソースコードや設計書が残っていなくても引き継ぎは可能です。現場の業務と帳票さえあれば、そこから仕様を組み立て直すことができます。
みんなシステムズでは、開発会社と連絡が取れなくなった案件や、資料が一部しか残っていないシステムの引き継ぎを数多く対応してきました。
「今の保守費用が高い」「とりあえず相談だけしてみたい」といった段階でも構いません。現状をお聞かせいただければ、今できることと進め方を一緒に整理します。